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トカゲと散歩  作者: *ファタル*
本編4森の中へ
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第107話 エルフの長 (クルビス視点)

単語解説


テラ…柔らかい帯。様々な色や模様があり、差し色としても使われる。

「ルシン、つかまってられるか?」



「…えっと…手が…上手く動かないんです。朝よりはマシだけど、つかまれないです。」



 祖父さんの確認にルシンが小さな声で答える。手が動かない?

 朝よりってことは、ケガじゃないな。これは、一刻も早く治療術士に見せないと。



「そうか。クルビス。俺のテラを取って、ルシンに結びつけてくれ。」



「はい。」



 薄青のテラを少し外してルシンの身体に巻きつける。

 祖父さんに巻きつけてある残りと結び合わせて、解けないことを確認した。



「よし。ルシン。おとなしくしてろよ?」



「あ、ぼくの血。」



「大丈夫だ。俺が消しといた。」



 ルシンの疑問に祖父さんが簡潔に答える。

 気が付くと、血の跡は綺麗に無くなっていた。浄化したんだな。



 血の魔素は残るからな。まして、ドラゴンの一族の血では、後々、この辺りの環境に影響しかねない。

 祖父さんの処置に納得しつつも、いつの間に行ったのだろうと内心首を傾げる。未だに祖父さんの能力は計り知れない。俺など、到底追いつけそうにないな。



「さて、ハルカも待ってるだろ。戻るか。」



「ええ。」



 祖父さんの言葉に頷いて、上を目指して地を蹴った。








 ******************



「あ、おかえり~。」



「「っ。」」



「おかえりなさい。」



「長様だ~。こんにちは~。」



 聞きなれた独特の口調で、深緑の森の一族の長がハルカと共に俺たちを出迎えた。

 驚いて何も言えない俺と祖父さんを他所に、ルシンはのんきに挨拶する。



「えっと、この子の治療で魔素を使ったじゃありませんか。それを確かめにいらしたんです。」



 ハルカがヒナを手に説明してくれるが、嘘くさい。いや、ハルカは聞いたまま俺たちに教えてくれてるんだろう。だが、深緑の森の一族の長ともあろう方が、あの魔素の共鳴がどんなものかわからないはずがない。

 ていうか、リードから聞いてるだろ。目が笑ってるぞ。



「そうなんだよね~。いきなりあんな大きな魔素でしょ?もう、里は大騒ぎでさ。何事だってね~。

 ディー君に聞いてたし、僕が大丈夫って言ったんだけど、ジジイたちが調べに行くって聞かなくてね~。それをなだめて僕が来たんだよ~。」



 ああ、長老方のせいか。未だに現役気分が抜けなくて困るとリードが言ってたな。

 しかし、ジジイとは…リードの話だと、長は長老方の教育係だったんじゃなかったか?なのに、目の前の青年は若々しい容貌を崩していない。



「お前も大概ジジイだろうが。だが、丁度良かった。この子を見てくれるか?手が動かせないらしい。」



「お~。僕、ナイスタイミングっ。どれどれ~。え~とっ。お名前は?」



「あ、ワースです。…あだ名ですけど。」



「うんうん。ドラゴンの子だもんね。よろしくワース。

 じゃあ、ワース。動かせるだけでいいから、ゆっくり手を動かしてみてくれるかな?」



 ルシンの治療が始まるのを見守っていると、ハルカが腕に触れてきた。



「おかえりなさい。」



「…ただいま。」



 はにかんだ笑顔がまたかわいい。

 この笑顔のためならなんでもしてしまいそうだ。

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