第106話 救出 (クルビス視点)
ザシュッ
一気に問題の崖下へと着く。
振り返ると、崖の壁面にもたれてグッタリしている子供の姿があった。
「ルシンっ。」
祖父さんが子供に向かって駆け寄る。その後に続きながら周囲を見回すと、俺たちの着地点の近くに血が数滴ついていて壁面の子供に向かって続いていた。
血が出たのか。眉をしかめながら、先に子供の様子を確認に行く。
「ルシェリード様っ。」
嬉しそうに祖父さんを呼ぶ。声を聞く限り元気なようだ。
この分だと、ケガも大したことないようだな。ホッとしながら近づいていく。
「クルビス様までっ。すごいっすごいっ。」
「ケガを見るからジッとしてなさい。」
「はいっ。あ、ぼくルシンって言います。みんなには「ワース(銀色)」って呼ばれてますけど、クルビス様はルシンでいいです。」
「ありがとう。ルシン。じゃあ、まず肩を見せてくれるかな。」
目を輝かせて喜ぶルシンに目を細めつつ、様子を確認していく。
魔素は弱くなっていたが、不安定さはない。右肩の鱗が取れていて、それが出血の原因のようだった。血はすでに止まっている。
「落ちる時に崖に引っかかって右肩をケガしました。それが痛くて、着地に失敗して、背中から落ちたんだけど、とっさに尻尾と足で蹴ったから背中しか打ってません。でも、右足痛めました。」
ルシンが自分の落ちた時の様子をつっかえながらも説明してくれる。
成る程、着地に失敗したが自分で衝撃を和らげたのか。
しかし、よくそんな方法知ってたな。守備隊では訓練の一貫としてあらゆる体勢からの着地を身に着けるが、学校で習うのは身体を丸めたり捻ったりして足から着地する方法だ。それも、せいぜい3階くらいの高さからの着地で、この崖のような5階以上の高さからの着地を想定したものではない。
「良くそれくらいで済んだもんだ。兄貴に習ったのか?」
「習ってないけど、そういう方法があるって聞いてました。とっさに思い出してやってみたけど、上手くいきませんでした。」
兄貴?そういえばヘビとトカゲの一族に兄弟がいるんだったか。
どちらかが守備隊にいるのかもしれないな。
「背中を見るよ。」
申告通り打撲による炎症は見られたが、骨に異常はなさそうだ。翼を出し入れする部分も大きな腫れはみられない。
「翼は出せそうかな?」
「はいっ。出し入れ出来ますし、動かせます。でも、背中が痛くて飛べないんです。」
なら、大丈夫だろう。右足も腫れているがそう酷いものではなかった。
一通り見て、肩以外は打撲だけのようで安堵する。
「肩以外は打撲だけみたいですね。詳しくは治療術士に見せなければわかりませんが。」
「そうか。じゃあ、動かせるな。」
祖父さんはそう言うとルシンをそっと抱き上げた。抱き上げても痛そうな様子はない。
それより、俺と祖父さんを目にして興奮してるようだ。
「さっきのお姉さんにもお礼言わなきゃ。いきなり声が聞こえて驚いたんですっ。」
いきなり?ハルカもそう言ってたな。どういうことだろう。
疑問に思うが、ハルカを上に残してきている。早く戻らなければ。
「ほお。その話も含めて、後でいろいろ聞かせてくれ。上にそのお姉さんがいるからな。ちゃんとお礼言うんだぞ?」
「はいっ。」
無邪気な返事に目を細めつつも、この子がしでかした数々の違反が頭に浮かぶ。
知らなかったとはいえ、ポムの木の被害があるからな。誤魔化しが利かない。
ため息を飲み込みつつ、ハルカの待つ上を見る。心配してるだろうな。
早く無事を知らせてやりたい。




