第105話 到着 (クルビス視点)
「そりゃあ、探してる幼体の名前だ。俺はお前らには言ってないよな?」
祖父さんが俺に確認してくる。
もちろん聞いてない。頷きを返すと、祖父さんはハルカを見た。
「ハルカ。詳しい話は後だ。この先の崖下にいるって言ってたんだな?」
「っ。はいっ。足を滑らせて、背中と足を痛めたそうです。」
「…それで、動けなかったのか。背中ってことは翼も痛めてるかもな。50歳過ぎたばかりのガキじゃあ、自力でどうにかするのは無理だろ。」
「ええ。自己治癒もまだ出来ないでしょう。」
祖父さんのつぶやきに俺も頷きを返す。
自身の魔素を高めて行う自己治癒は60歳を過ぎてから習う。50代ではまだ使えないだろう。
「とりあえず言ってみるか。この先、奥に進んで行けば崖に着く。」
祖父さんの一言で崖を目指して進むことになった。
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「ここだ。糸もこの下に続いてるな。」
祖父さんが崖の傍にしゃがみ込む。
ハルカを降ろして覗き込むと、糸は確かに下に向かって続いていた。
「すごい崖ですね。」
「あの中腹に張り出してる部分ですか。」
「ああ。だが、姿が見えねえな。奥に引っ込んでるのかもしれん。こっからあそこまでは、こう、えぐれたみてぇになっててな。こっから見るより、結構広ぇんだよ。」
祖父さんが仕草で崖の様子を教えてくれる。さすがに森のことには詳しいな。
糸が続いている以上、この下にいるのは間違いないだろう。
「降りてみますか。」
「そうだな。」
「えっ。どうやって降りるんですかっ?」
俺と祖父さんが降りようとすると、ハルカが俺の腕をつかんで聞いてきた。
顔色が悪い気がするが、大丈夫だろうか?
「この崖の岩は丈夫だからな。このまま下に降りても支障ないだろう。」
「こ、このままですか?」
「ああ。もちろんハルカはここで留守番だ。俺とクルビスで行くから問題ない。それより、声はまだ聞こえてるか?」
「はいっ。私の声は聞こえてるみたいで、さっき崖のこと口にしたら、着いたのがわかったみたいです。助かったって喜んでました。」
嬉しそうにハルカが報告してくれる。
その手にはキグスの糸が握りしめられていた。
「そうか。なら、魔素も安定してるだろ。すぐ行くって伝えてくれるか?」
「はい。ルシン君?今から大人…えっと、成体の男性がお迎えに行くからね?ジッとしててね?…うん。わかった。…待ってるそうです。」
ハルカが頷いて、無事に伝えられたことを教えてくれる。
よし、それなら行くとするか。
「じゃあ、行ってくる。危ないから少し下がっててくれ。」
ハルカに手振りで下がるように示すと、おとなしく下がってくれた。
それを確認してから、祖父さんと目で合図して崖の下に向かって飛び降りた。




