第104話 声 (クルビス視点)
ガササッ
茂みを避け、草を足でかき分けながら、糸が伸びる方向へと進んでいく。
祖父さんが先行してくれるおかげで、足元を気にしなくていい。ハルカを抱き上げてる現状では非常に助かる。
代わりに俺は魔素を練り上げ、透視の精度を高く保ったまま周囲をくまなく探っていく。
感知出来る範囲に動くものの反応は無い。ドラゴンの魔素にあてられたのか、逃げたまま戻ってきていないのか…。濃いドラゴンの魔素と物言わぬ木々の反応だけが返ってくる。
植物の場合、魔素にゆらぎがないため、獣などの動く生き物と間違うことはない。
祖父さんの言った通りだな。獣も鳥も気配がない。あのポムの実のあった場所と同じだ。
糸がどこまで続いているかわからないが、探す方向は間違ってないだろう。
ただ、もうかなり奥まで来ている。いくら十数個のポムの実を食べたとはいえ、トカゲ型に変化した後では魔素は言うほど残っていないはずだ。
無理に動き回らず、どこかでじっとしててくれればいいが。
魔素で浮かびあがる道標を見ながら、早く見つかればいいと願う。
ドラゴンの一族とはいえ、相手は50歳を過ぎたばかりの子供だ。
体力は他種族の成体ほどあるが、魔素がなければ急速に弱る。
「え?誰?」
「どうした?ハルカ?」
周囲を探りながらハルカを見る。彼女は何かを探すように首をきょろきょろと動かしていた。
俺の呼びかけも聞こえないようで、その視線は森の奥に注がれている。
「…どこにいるの?」
「ハルカ?」
「どうした?」
彼女の様子に気づいた祖父さんがこちらにやってくる。
俺にもわからない。何かと話しているような感じだが、周りを探ってもそれらしい反応は無い。
「…崖?っっ。下にいるのね?大丈夫。すぐ助けてあげるっ。」
ハルカの顔色が一気に悪くなる。魔素も大きくゆらいだ。何があったっ?
祖父さんも険しい顔をしているが、彼女の反応を見ているようだ。
「クルビスさんっ。この先に(崖)はありますか?」
崖?祖父さんをチラリと見ると頷いている。あるみたいだな。
だが、何故ハルカがそんなことを聞くんだ?
「…ある。」
「その下に大きく張り出した場所がありますか?」
祖父さんを見ると、驚いた顔で頷いている。…あるのか。
どういうことだ?
「…ある。」
「そこに落ちたそうです。声がっ。耳のそばで聞こえてっ。空耳かと思ったんですが、ルシン君そこから動けないって。」
「待てっ。今何と言った?」
祖父さんがハルカをさえぎった。
確かに、今誰かの名を言ったな…。っ。まさかっ。
「え?」
「今、名を言ったな?…もう一度言ってくれ。」
「…ルシン君。」
祖父さんの問いにハルカがはっきりと答える。
祖父さんの目が大きく見開かれ、俺は自分の考えに確信を持つ。
…間違いない。今、ハルカが言ったのは探してるドラゴンの名前だ。




