第100話 調査終了 (クルビス視点)
「まあ、いい。この辺りに変化はなさそうだが、お前はどうだ?クルビス。」
「俺の方も特におかしい場所や空間は確認できませんでした。もう少し先に行ってみましょうか。」
「そうだな。」
祖父さんと俺で意見が一致したため、先に進むことにする。
祖父さんが先程ハルカに質問していたことは、深緑の森の一族が来た時に起ったことだったんだろうか。
深緑の森の一族を保護した後、祖父さんは空間に関する研究にも関心を寄せるようになったらしい。
その副産物として、祖父さんと深緑の森の一族の長で転移の術式が組み上げられたくらいだから、空間認識には詳しいはずだ。
「先程、ハルカに聞いていたのは昔あったことなんですか?」
「ああ。エルフたちが来て、しばらくは上空に歪みがあった。里ごと転移してきたからな。影響が強く残ってたんだろう。ハルカの場合は、ポムの小道の結界が無事だから、上空にゆがみは無いと思ってる。」
成る程。確かに、上空にゆがみが出来れば、結界は維持出来ていないだろう。
あの結界はポムの木が魔素を放出しないという前提で成り立っていると、以前キィが言っていた。強い風が吹いた時だけ結界の強度が増すようにしてるらしいから、魔素の微調整がかかせない不安定なものになってしまったとぼやいていたな。
「だから、地上に影響が出ていると?」
「そうだ。だが、ハルカがこちらに来た時の話からすると、世界が一瞬だけ接した可能性も出てきたな。」
「一瞬ですか?」
俺の質問に祖父さんが答え、それにハルカが反応した。
「ほんのちょっとだけな。泡が軽くくっ付いてまた離れていくようなもんだ。世界ってのはそういうことを繰り返してる。
その接触地点にたまたまハルカがいて、しかも、足を踏み出しちまった。それでこちら側に来た可能性も考えられる。あくまで予想の範囲だがな。」
「泡…。」
祖父さんの説明にハルカが考え込む。魔素を見る限り、ショックは受けていないようだ。自分に起こったことを確認しようとしているみたいだな。
祖父さんもハルカの様子を見ながら話しているみたいだが、ハルカの落ち着いた様子に感心しているようだった。
「さて、そこそこ進んだが、この先はポムの木が完全に無くなる。ハルカが来た時、ポムの木が周囲にあったか覚えているか?」
「はい。ありました。こちらに来て、最初に目についた植物でしたから間違いありません。こんな真ん丸な葉っぱは見たことも聞いたことも無かったので、すごく驚いたんです。」
「なら、ここまでだな。見た目にも魔素でも、俺は特にひかからなかったんだが、クルビス、お前はどうだ?」
「俺の方もありませんでした。かなり術の精度は上げていたんですが変化は感じ取れませんでした。」
祖父さんが止まってハルカに確認を取った。ポムの木を見てるなら、この先では無いことになる。しかし、ここまでで、感じ取れる魔素に乱れもゆがみも無かった。
祖父さんの言った通り、一瞬だけのことだったのかもしれないな。だが、そうなるとハルカは…。
「じゃあ、捜索にいきましょう。お二方が見てわからなかったのなら、残ってる変化はほとんど無いんだと思います。今日わかるのはここまでじゃないでしょうか。
それなら、あのドラゴンを早く見つけてあげないと。」
ハルカが俺と祖父さんに提案してくる。確かに、これ以上ここにいても新たな収穫は見込めないだろう。
祖父さんの方を見ると、ハルカを面白そうに見て俺に頷いた。
「…そうだな。調査はここまでだ。捜索に入ろう。」




