第96話 捜索方針(クルビス視点)
「見つからないんですか!?」
驚いて聞き返す。祖父さんの捜索の網にかからないなんて…。いったい何処にいるんだ?
祖父さんは苦り切った顔で頷いた。
「ああ。奥に降りた後、魔素の網を広げたんだがまったくひっかからん。もしや本体じゃないのかと思ったんだが、ハルカ殿の話だとそういうわけでもなさそうだしな。
朝の時点ですでに本体だったとすると、それからトカゲ型になるとは思えん。まだ54歳の子供だ。変化には殊の外魔素を使うはずだしな。
ポムの実を一枝分持っていったとしても、魔素の補給には足りないだろう。」
本体だという前提で捜索していたのか。まあ、そうだな。今朝のような異常気象では、起きているだけで魔素を消費するだろう。
おそらく、本能的に本体に戻ったはずだ。ドラゴンは本体の方が魔素が安定するし、なにより丈夫だからな。
祖父さんもそう考えて、本体がかかる大きさの魔素の網を広げたんだろうが…。
それで見つからないとなると、小さくなってると考える方がいいだろう。
「いえ。足りるかもしれません。一枝に10数個は生っていましたから。それに、その年でルシェモモにいたなら、普段はトカゲ型で生活していたのではありませんか?
結界内を飛んで、本体では動きにくいと判断した可能性もあります。」
「10数個…。なんだそりゃあ。聞いたことねぇぞ。」
祖父さんの口調が素に戻る。かなり驚いたみたいだな。
普段は長らしく振舞っているが、本来、かなり自由な気性だ。もともと俺の前では素で話してたんだが、ハルカの手前、長として話していたんだろう。
「ああっ。畜生っ。それなら確かにトカゲ型だろうな。兄貴がヘビとトカゲの一族で、普段一緒に暮らしてるんだ。
さっきまでは、本体のまま魔素が弱って網にひっかからねぇんじゃねえかと思ってたんだが、トカゲ型なら探す方法変えなきゃな。ポムの実を全部食ってるんなら、まだ持つだろう。」
祖父さんが額に手を当てて、吐き捨てるように言う。
成る程な。それならトカゲ型になってるだろう。トカゲの一族の兄弟がいるのか。銀の…もしかして…いや、それは後だ。頭に浮かんだ可能性を振り払う。今考えるのはそれじゃない。
しかし、これでさっきの祖父さんの話に納得がいった。
ハルカの話から推測するなら、本体のまま弱っていると考えるのが普通だ。そこまで弱ると、祖父さんの魔素はかえって毒だからな。それで、俺とハルカに協力を要請したのか。
だが、どちらにしろ、一緒に捜索した方が良さそうだな。
トカゲ型になってるなら、より細かい探査が必要になる。それなら俺のほうが得意だ。祖父さんの魔素は良くも悪くも大き過ぎるからな。
「そうですね。手伝います。トカゲ型を探すなら、数は多い方がいいでしょう?」
「ああ。助かる。…そういや、調査っつってたな。それはもういいのか?」
「この先のハルカが最初にいた場所を調べたら終わる予定でした。すぐに済ませるので、それを先にやらせてもらえれば後は平気です。」
俺の返事に祖父さんが嬉しそうな顔をする。思い出したように調査のことを確認してきたので、先に調べさせて欲しい旨を告げると、祖父さんは頷いた。
ハルカが見えるうちに済まさなくてはな。ハルカには悪いが、捜索には一緒に来てもらおう。弱っている場合、ヒナにしたように共鳴が必要になるかもしれない。
「ハルカ。すまないが、こういうわけだ。もう少し付き合ってもらうことになった。」
話がまとまって、ハルカに決定事項を伝える。悪いが、子供の命は最優先だ。付き合ってもらうしかない。
俺の言葉を聞くやいなや、ハルカは首を何度も縦に振り、快く了承してくれた。
「大丈夫ですっ。早く見つけてあげましょうっ。」
つくづく得難い女性だと思う。
離す気はすでにないが、俺に彼女を引き留められるだろうか?




