第94話 報告 (クルビス視点)
「ハルカ殿は今朝いらしたとお聞きしたが、今日のように寒い日ではさぞ難儀されたことだろう。お体は大丈夫でしたか?」
「大丈夫です。ありがとうございます。…えっと、私の故郷では、今朝くらいの気温はよくあることなので、寒いとは感じませんでした。」
「っ。なんとっ。…もしや、ハルカ殿の故郷では雪が降るのかな?」
「はい。たくさんは積もりませんが、冬…1番寒い時期に降ります。」
「成る程…。」
祖父さんとハルカが和やかに話す。だが、その中に知らない言葉が出てきた。
ユキ?話の内容からすると、寒い時期に降るとか…。祖父さんは知ってるみたいだな。
「ああ。我が孫よ。お前は知らないだろう。雪とは、とても寒い地域で降る雨のようなものだ。白くてふわふわしていて、溶けると水になる。寒さの象徴のようなものだな。」
祖父さんの説明にハルカも頷いている。寒さの象徴か…。祖父さんが納得しているということは、今朝の気温に検討をつけたな。
リードも言っていたが、ハルカが来たことで気温が低下した可能性がある。確信はないが、あまりにタイミングが良過ぎるからな。結びつけて考えるのは仕方ないだろう。
「綺麗ですよ。寒いですけど。積もると、一面が真っ白くなって、私の故郷よりもっと北の方では、集めて固めて彫刻を作ったりもします。」
ハルカが俺にユキについて熱心に教えてくれる。ハルカはユキが好きなんだな。
一面の白か。それは見てみたい気がする。寒いのは苦手だが。
「そういえば、我が孫よ。どうしてお前とハルカ殿がここにいるんだ?今この森は安全とはとても言えんぞ。」
不思議そうに祖父さんが俺に聞く。だが、目を見ればわかる。あれは怒っているな。
ハルカはどう見ても普通の女性だ。安全が確認されてない森にそんな女性を連れて来るのは褒められたものではないからな。
「あ、あのっ。私、最初にこの森にいたんですっ。だから、朝と何か変わったことがないか、クルビスさんと一緒に見に来たんですっ。」
俺が口を開くと、ハルカが先に話してくれた。
目が合うと、視線で詫びられる。思わず先に言ってしまったようだ。祖父さんの言葉に含まれた怒気に気付いたんだろう。
気にしなくて良い。むしろ助かった。祖父さんの怒気が収まったようだ。
これなら話がしやすい。
「ハルカが言った通りです。朝、仕事に行く途中で気が付いたらこの森にいたそうです。
彼女に会ったのはリードに頼まれたポムの小道の調査の途中でした。彼女が最初にいた場所はこの先にあって、彼女はそこから自力でポムの小道まで出てきたようです。
1度保護しましたが、彼女の同意を得て調査に同行してもらいました。朝の森の様子を知っているのは彼女だけでしたので。」
俺の報告を聞いて、祖父さんはハルカをじっと見る。彼女の境遇に同情し、同時に彼女の知っている朝の森の情報に興味を示したようだ。
ハルカは祖父さんに見つめられて落ち着かないようだな。
「彼女の情報は有益でした。報告にないポムの木の切り株に、ポムの実の異常発生、そしてドラゴンの目撃です。」
祖父さんが俺の言葉にはじかれたように顔を上げる。
祖父さんが最も知りたかった話だろう。




