第10話 目的地はコーヒーカップ
最初にその建物を見た時、洗いかごに伏せたコーヒーカップやマグカップを連想した。
周りの可愛らしい半球の商店とは対照的で、とても大きな建物だ。正面から見ただけでも横幅が店舗3つ分はあって、半球を縦に伸ばしたような形をしている。
左上の所に平仮名の「し」の形の枠があり、そこに鐘が下がっていて、余計に伏せたカップの取っ手に見えた。
たぶん、大きさから考えて、2階以上あると思う。車のバックドアみたいに、壁が何ヶ所か跳ね上がってる部分がある。
…あれって窓かな?
異文化だなぁ。
(じゃあ、今までのお店の軒先の屋根って、もしかしてドアとかシャッターってことかな。それで、閉めたら綺麗な半球になるっと…はぁ〜無駄が無いよね〜。)
なんかリフォーム番組でみる収納家具みたいと感心しながら、手を引かれるまま中に入っていく。
(入口も大きい〜。…でも何で階段ついてんの?…床が高いってことよね。)
不思議に思いながらも、磨かれた床が滑りやすくて、すぐにそちらに気が移る。
(ちょっと磨き過ぎじゃないっ?
ヒールだからっての差し引いても滑るわよっこれっ。)
内心、文句を垂れながらも、何でもないように歩く。
…どうか転びませんように。
入ってすぐは、円形のテーブルとイスが幾つもあり、黒い制服のリザードマンやエルフ、顔が犬みたいな獣人など多種多様な種族が座っていた。
黒いリザードマンが入っていくと、視線が一斉にこちらに集まる。
(何か目立ってるなぁ。でも私じゃないな。彼に向いてる。)
ちょっとビビったけど、視線を辿ると私のななめ前に集まってるのがわかった。
(ん〜?彼、有名人?)
全身黒一色なのは彼くらいで、それだけでも目立ちそうだけど、そうじゃなさそう。視線に嫌な感じはないから、良い意味で有名なんだろうなあ。
面白がってる感じもするけど、それはスルーしよう。
私に視線を寄越されても困るし。
「♪¥°☆¥!¥#☆€°$☆%$#☆¥!」
彼はテーブルやイスの間を抜けて、右奥にあるカウンターに声をかけた。カーキ色のリザードマンから何か受け取ると、私の手を取ってカウンター横の階段を登り始める。
ちなみに、1階は手前にテーブルとイス、真ん中に上下階段があって、階段の左右にカウンターがある。階段とカウンターの間は廊下になっていて、さらに奥には部屋があるみたいだった。
背中に突き刺さる視線を振り切り、手を引かれながら階段を登る。階段は木製だった。
(良かった…。コケる心配が無くなった。)
階段を登ると周りを見渡す。
階段を中心に円形の空間があって、その外側にドアが等間隔で並んでいた。
彼はそのうちの1つに向かい、ドアに付いてる貝殻のようなものを軽く叩く。
カッカッ
高い音が響いて、中から声がした。
「%$☆。」
優しい声が耳に響いて、何故だか安心する。
ドアを開けると、中には1人のエルフがいた。