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トカゲと散歩  作者: *ファタル*
本編4森の中へ
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第92話 遭遇 (クルビス視点)

 ハルカの手を離して両手を広げて彼女を迎える姿勢をとると、何故か目を見開いて驚いているようだった。

 何に驚いているんだ?



「どうした?」



 俺が聞くと、ハルカは俺の目を見て…戸惑い?羞恥?

 まだ恥ずかしがっているのか?



「今までも移動にはこうしていただろう?」



 ハルカの様子を可愛いと思いながらも聞いてみる。彼女がどう思っていたとしても、この方法をやめる気はないんだが。

 リードかシードがいたら呆れられるかもしれないな。自分でも少し呆れるくらいだ。だが、彼女からは離れられない。



 それに、彼女がヒト族である以上、いざという時に身を守れないかもしれないしな。彼女の感覚の弱さは今の状況では致命的だ。

 言い訳がましく彼女のことを考えていると、ハルカがこちらに寄ってきた。



「よ、よろしくお願いします。」



 手の上に乗ったヒナが不思議そうに俺とハルカを見ている。

 彼女の顔が赤い。やはり照れていたのか。鱗のない種族は顔に感情がハッキリ出るな。



「プギィッ。」



 ヒナが俺の方を向いて鳴いた。よろしくということか?

 …お前はついでなんだが。



「ふふっ。」



 ハルカがヒナを見て笑っている。まあ、いいか。

 時間も惜しいことだし、早く移動を始めよう。







 *****************




 進み始めてしばらくたつと、道が細くなってきた。

 幸い、ハルカが目印に枝に刺した葉は外れていなかったため、迷わず進めている。



「この先、もう少ししたら道が無くなります。道っていうより獣道みたいな感じになってきて。」



 ハルカが前方を見据えながら言う。目印を探しているようだ。

 おそらく、ハルカが言っているのは狩り場用の細道のことだろう。



 ハルカには道に見えなかったんだろうな。

 慣れない者が使うと森の奥に迷い込むこともあるらしいから仕方ないだろう。



 彼女が森の奥に進まなくてよかった。

 さ迷っているうちに消えてしまっただろうな。



「…さっきので最後かな。」



 ハルカを見て、出会えた幸運に感謝していると、彼女が後ろを見ながら声をあげた。

 最後?最後というと…。



「クルビスさん。もう目印はありません。さっき通り過ぎたので最後みたいです。」



「ああ。目印か。まあ、まだ道はあるし、大丈夫だろう。ハルカは真っ直ぐ進んできたんだろう?」



 ハルカに確認すると、彼女は頷いて答えてくれた。



「はい。しばらくは道にそって真っ直ぐ進んだので大丈夫だと思います。ただ、最初はホントに道らしきものもなかったので、その辺りは自信ないですね。」



 奥は身を隠しやすいように低木を配置しているからな。

 道には見えないだろう。



「奥は狩り場用の細道になっている。身を隠すように木を配置しているから道には見えないが、真っ直ぐきたならその細道だろう。大丈夫だ。」



 この分なら、狩り場用の細道をたどれば良さそうだ。多少ずれていても透視の精度を上げて置けば大丈夫だろう。

 …そろそろ細道に入るな。もう少し魔素を練り上げておくか…ん?



 透視の精度を高めていると、前方から近づいてくる者がいることがわかる。

 この大きすぎる魔素は…祖父さんか。さっきの共鳴だな。確認に来たんだろう。



 かなり奥にいたはずだが、もうここまで来たのか。さすがだな。

 長の地位を次代に譲りたがっているが、まだまだ現役でいけるんじゃないか?



 ハルカには言っておくか。驚かしたら可哀そうだしな。



「ハルカ。」



「っ。はいっ。」



 立ち止まってハルカを見ると、彼女は先程より緊張した様子で返事をした。

 何かあったのかと思ったんだな。まあ、間違ってはいないが。



「いや。そう緊張しなくてもいい。どうも、例のドラゴンの捜索に来ていた俺の祖父がこちらに向かっているようだ。」



 俺がそう告げると、ハルカは愛らしい目を目いっぱい見開いて、口もぽっかりと開けていた。

 祖父さんが来ていることは話してあるが、まさか自分が会うことになるとは考えもしなかったっていう顔だな。



 例のドラゴンについては移動中に俺の推測と共に話してある。ポムの実の場所で起こったことも可能性の段階だが伝えてある。知らないものに怯えるより、推測でも原因が何か知っている方がいいからな。



 しかし、ずいぶん驚いているな。

 例のドラゴンの捜索に祖父さんが森に来てることを言ったときは、降りてくるところを見たがってたくらいなんだが。会うとなるとまた別なんだろうか。



「ハルカ?そういうわけだから降りてもらえるか?」



 様子が可愛いのでしばらく眺めていたいんだが、祖父さんがそろそろこちらに着くからな。

 名残惜しいが降ろさなくては。



「っ。はいっ。すみませんっ。」



 ハルカは俺の言葉にハッとした後、慌てて降りて服を整え始めた。

 片手に乗せ変えられたヒナも「プギッ。ピギィッ。」と真似て毛づくろいを始める。



 ガササッ



 微笑ましい光景に和んでいると、前方から木漏れ日を跳ね返して金に輝く戦士が近づいてくるのが見えた。

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