第91話 目に見えぬ不安 (クルビス視点)
「あ、あのっ。えっと。下を見てましたけど、この子と、折れた枝と、散らばった青い葉っぱと枯葉が多いなと思いましたっ。」
ハルカが突然話題を変えた。驚いたが、貴重な情報に耳を傾ける。
俺を待つ間に、下の周囲を見てくれたようだ。その時にこのヒナを見つけたんだろう。
「他は、特にはないんですけど…。」
何故か話すほどハルカの声が小さくなり、不安と後悔の感情が流れてくる。
後悔?今言ったことを後悔しているのか?何故だ?
「そうか。それでヒナを保護してくれたんだな。ありがとう。」
疑問に思いながらも、彼女に礼を言い。感謝の感情を返す。
すると、ハルカはホッとしたように微笑んだ。
彼女が微笑んだ瞬間、安堵と喜びの感情が伝わってくる。
先程感じた不安と後悔の感情は気のせいではなかったようだ。だが、何故?
俺が彼女の情報を受け入れるのは当たり前なんだが…。
俺は若干困惑しながら彼女に微笑みを返した。
彼女しか朝のポムの小道の様子は知らないし、その彼女が朝と比べてどう感じたのかはとても貴重な情報だ。
たとえ、特に変化が感じられなくとも、それならそれで俺が見ている様子とほとんど同じだったと推測出来る。
切り株の話など、彼女が口にした何気ない話が思いがけず重要な情報だったりするので、彼女の話に今の所無駄はないんだが…。
これは、もしや…あれか?
こちらはありのままの情報を欲しいと思っているのに、慣れない住民が役に立つことを言おうとして上手く話せなくなったり、自分の情報は価値が低いと考えてて言っていいか不安になるやつか?
守備隊で調査する際によくあることだが、今の彼女の様子はその調査に緊張する住民とよく似ているように思う。
ハルカはこれまで思い付いたことや思い出したことを積極的に言ってくれていたが、急にどうしたんだろうか?
顔にも感情にも出さないようにしながら考えて、先程不安の感情を感じとったことを思い出す。
あれは、自分の意見への不安ではなく、今の状況への不安だったのか?
…これだけ荒れていれば仕方ないかもな。これまでの様子とはかなり違う。この状況で自分の感じたことを言っていいものか迷ったんだろう。
周りを見回すと、枝とヒナ以外は巻き上げられた落ち葉が盛大にまき散らされている。見た目には嵐の跡のようだ。不安にもなるな。
他は特に異常はないように見える。
落ち葉が多いように感じるのは、例のドラゴンが巻き起こした風で下の方にあった落ち葉までまき散らされたからだろう。
「上の枝とこのヒナ以外に特に異常も見当たらない。落ち葉は下にあったものもまき散らされたから増えて見えるんだろう。大丈夫だ。」
俺が言うと、ハルカの顔が明るくなった。
こんな荒れた場所に長くいては不安が膨らむ一方だ。早く移動しよう。
「ここは大体わかった。そろそろ先に移動しよう。」
反省と共にハルカに先に進むことを提案すると、彼女は微笑んで了承してくれた。




