第89話 ヒナ (クルビス視点)
祖父さんが降りてきたということは、例のドラゴンは集落にはたどり着いていないようだ。
悪い方向に予想が当たっていく。舌打ちしたい気分で祖父の飛ぶ様子を見続けた。
どうも森の奥を目指しているようだ。あそこは結界の切れ目のあたりだな。
確か少し開けた場所があったから、そこに降りるつもりだろう。
調査と捜索を同時に進めるつもりだったが、祖父さんが捜索に乗り出すなら調査を先行してから合流するか。
ハルカがいるから無理は出来ないしな。日暮れ前には1度戻ろう。
その時に街の状態が落ち着いていれば、捜索の数を増す。
動けなくなっている場合、時間が経てば経つほど危険な状態になっていくしな。
そうと決まれば、先に進むか。
俺はもう1度周囲を見回し、他に処置が必要な枝が無いことを確認した。
足場にしていた枝から一気に下に降りると、ハルカがこちらに駆け寄ってきた。
「クルビスさんっ。あの、この子がっ。」
差し出された両手を見ると、ぐったりと横たわっている黄色い生き物が乗っていた。
小さい体には不釣り合いなほど大きいかぎ爪を持っている。
ハルカの話していたセパのヒナか。
本当に小さいな。生まれてすぐくらいじゃないか?
力なくぐったりと目を閉じている。
おそらく、例のドラゴンの魔素に充てられたんだろう。
ここまで小さくては逃げることも出来なかっただろうしな。
それにしても、野生のセパか…。珍しいな。
親はどうしたんだ?
セパは個立ちの時期が早いが、このヒナは幼すぎる。必ず近くに親がいるはずだ。
周囲の気配と音に感覚を研ぎ澄ませるが、それらしい音は聞こえなかった。




