第9話 お気遣いの紳士
コツコツコツコツ
石畳にヒールが小気味よく音をたてる。
反動が足に跳ね返ってかなりキツイけど、文句も言えない。
言えない理由は、私のななめ前を行く黒の紳士です。
何故また紳士呼びなのかって?
答えは簡単。歩くスピードを合わせてもらってるから。
このリザードマンの身長はおよそ2m。腰の位置が私のより高いから、身長に見合って足は長いってことだよね。この体格ならもっと歩幅は大きいはずなのに、ヒールの私が普通について行けてる。
(くぅ〜。お気遣いの紳士めっ!)
カッコよすぎる。
体格良くて強そうで優しいとか。高スペックだ。
最初は周りに気を取られてて、全然わからなかった。足に跳ね返ってくる反動がキツイと感じ始めて、ようやく自分が普通に歩いてるって気付いたくらい。
(このさりげなさがたまりません。こんな扱い受けたことないし。)
さらには、手を取られてるんだけど、彼の手の平に私の手を置いている感じで、掴まれて連行されてる感じじゃないんだよね。
どちらかと言うと、エスコートされてる感じだ。
(人生初のエスコートっ。)
自覚したとたん、足が軽くなったように感じた。
なんてお手軽なんだ私。
うきうきと黒い紳士について行きながらも、周りを見ることは怠らない。
何せここは異世界。少しでも情報が欲しい。
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車が通れるくらいの広さの通りが真っ直ぐ続いている。
2車線分くらいはあるなあ。
ここも広場と同じく、ピンクの石が敷き詰められていて、きちんと整備されているのがわかる。
(確か、こうやって綺麗に石を敷き詰めるのって難しいんだよね。しかも綺麗にしてるから、街の機能もしっかりしてそう。)
自分の知識と比較しつつ、通りの様子を観察する。
道の左右には、白くて丸い建物が並んでいて、軒先にこれまた白い屋根が突き出ている。その下には台が据えられ、何か草のような物が並べられている。
どうやらお店みたいだ。
他にも、お肉や果物らしきものを売っている店や、カフェや食事処なのか、大きな軒先の店ではテーブルとイスが置かれていて、そこでお茶してるリザードマンがいた。
それにしても、変わった建物だ。
まるでボウルを伏せたみたいなドーム状の建物。
色は白いけど、どっちかと言えばアイボリーみたいな柔らかい白だ。
表面もツヤツヤしてて、卵の殻みたいにも見える。
お饅頭が並んでるみたいでかわいい。
…なんかお腹空いてきたなあ。
気になるのは、開いているお店がポツポツとしかなくて、何とも不自然に見えるってこと。
(結構大きい通りだと思うんだけどなぁ。お店これだけ?)
そんなことをつらつらと考えながらも、道行くリザードマンたちを眺める。
意外だったのは、通りにいるのがリザードマンだけじゃなかったってこと。
最初に目についたのはエルフ。見間違いでなければ、たぶんあれはエルフだ。
尖った耳が長い髪の間から見えてる。
エルフかぁ。ますますラノベっぽいなぁ。
ファンタジーの中でも特にメジャーな種族で、薬や魔法に強いとされている。ここではどうなんだろう。
エルフとリザードマンが談笑している。2人とも私の手を引いている黒いリザードマンと同じ服装だった。
やっぱり制服なんだ。あれ。
もちろん、武装してない人?もいる。
ノースリーブなのは共通しているけど、色は鮮やかなものが多い。綺麗な染めの生地で、複雑な文様や花柄が目をひく。
鮮やかな青い服に目をひかれてお店を見ると、店の店主は獣人みたいだった。赤い髪に三角の耳が付いていてピコピコ動いてる。顔は人間と同じで、イケメン。ワイルド系ですね。
まぁ、他にもいろいろ気になるけど、今はここ迄かな?
目的地に着いたようです。




