表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

クラブ活動が終わるとモアちゃんと一緒に帰る事になりました

「それじゃ、午後は授業も無いみたいだし、片付けたら帰るか~」

 

 オムレツを腹いっぱい食べたミサキがそう言うと、俺達は部屋片付けをし、部室を後にした。

 

 学校を出て駅まで来て、電車に乗るとミサキが言う。

 

「私は空手の大会が近いから道場に行くので途中で降りるから、モアちゃんをちゃんと駅まで送ってあげろよ」

 

「ああ、まかしとけ」

 

「それと、明日の朝も空手の朝練で一緒にモアちゃんといけないから、タモツと一緒に来るんだぞ」

 

「うん!」

 

 モアちゃんは元気にそう答えた。

 

 5つ目の駅が来ると、ミサキはサヨナラの挨拶代わりに手を振りながら電車を降りた。

 

 やっと、モアちゃんと2人だけになれたぜ。

 

 ちょっと、ホッとする俺がそこに居た。

 

「モアちゃんはどの駅から通ってるの?」

 

「ここから3つ先の駅だよ。タモツ君は5個目の駅だよね?」

 

「うん、俺は小学校の時と同じとこに住んでるから、5個先の駅だよ。みんな遠いとこから来てるんだな」

 

 モアちゃんはいじめられた生徒達から逃げる為に、俺はあの乱暴な女から逃げる為に、こんな遠い学校まで通ってるんだったな。

 

 この学校迄の通学は距離が有って大変だけど、モアちゃんと出会えたので良しとしよう。

 

 モアちゃんが俺の顔を(うかが)うように聞いた。

 

「今日学校が早く終わってまだ早い時間だから、タモツ君と同じ駅で降りていいかな? タモツ君と一緒に居たら、小学校の事を思い出して懐かしくなっちゃったんだ」

 

「そうだな。一緒に散歩しようか」

 

「ありがとう」

 

 駅で降りると、モアちゃんが言う。

 

「将君の手を握って一緒に歩いてもいいかな?」

 

 彼氏と彼女だから手を握るのは当たり前なんだけど、心の準備が出来てないからちょっと恥ずかしいな。

 

 でも、ここで断ったりしたら、永遠に手を繋ぐ機会を失いそうだから……。

 

「いいよ。ちょっと恥ずかしいけど……ね」

 

 モアちゃんは俺の手を握って来た。

 

 とっても柔らかくて温かい手だった。

 

「タモツくんの手ってすごく大きいね」

 

「そうか? モアちゃんの手が小さくて可愛いのかもよ」

 

「えへっ」

 

 そう言われたモアちゃんは顔真っ赤だ。

 

 俺もそんなモアちゃんと歩いてると緊張と嬉しさと恥ずかしさで、俺も顔が真っ赤になっているのか、耳の後ろが(かゆ)くなる様なとても変な感覚に襲われる。

 

 それを誤魔化す様に、俺は必死でモアちゃんに話掛けた。

 

 二人は思い出話を話しながら小学校へ向かう。

 

 殆どは6年生の時の友達とか、先生の噂話だった。

 

 あいつとあの子は付き合ったのだの、あいつはどの学校行ったのだのそんな他愛も無い話をする。

 

 モアちゃんと一緒に歩いていると、いつも見慣れた町の風景が思い出と混じり新鮮な気持ちで目に入って来る。

 

 モアちゃんと居ると、俺は心の底から安らいだ。

 

 3月までのレイカに常時凄まじい力で押さえつけられるあの感覚とは全く違う。

 

 心に羽が生えると言う言葉あるが、今が正にそれだった。

 

 もっと早くにモアちゃんと付き合っておけば良かったな……と、そんな後悔が俺を襲う。

 

 小学校に着くと守衛のおじさんに断って校庭の中に入る。

 

 最近は警備上の問題が色々と有って生徒とその父兄以外の立ち入りは認めてないそうなんだが、「今日は短縮授業で生徒が居ないから特別だよ」と言う事で気の良さそうな守衛のおじさんが入れてくれた。

 

 モアちゃんは校庭に入ると大喜びで一人で色々な遊具で遊び回っている。

 

 そんなモアちゃんを俺はほっこりした気分で眺めていた。

 

 15分ほど遊びまわったモアちゃんは、俺の座ってるベンチに来ると息を切らせながら俺の横に座った。

 

「久しぶりに楽しめたよ」

 

「そうか。良かったな」

 

「私、小学校の頃に戻りたいな……」

 

「どうして?」

 

「中学生の頃は楽しい思い出無かったんだもん……」

 

 モアちゃんはイジメであまり楽しい思いで無かったらしいからな。

 

 そう言う俺も同じようなもんだ。

 

「高校は小学校以上に楽しい思い出をたくさん作ろうな!」

 

 そう言うと、モアちゃんは「うん!」と力強くうなずいてくれた。

 

「そう言えば、モアちゃんが俺の事を好いてくれてるのってバレンタインデーの時に知ったんだけど、なんで俺なんかにチョコくれたの?」

 

「4年生の時に、私の事助けてくれたから、それからずっとタモツ君の事好きだったんだ」

 

「そんな前から好きでいてくれたんだ。でも、4年生の時にモアちゃんを助ける様な事、何かしたかな?」

 

「私が教科書忘れて先生に怒られそうになったら、斜め前の席のタモツ君が教科書貸してくれてね、それでタモツ君が先生に代わりに怒られた事覚えてない?」

 

「ん~、覚えてないかな?」

 

「その時から、タモツ君の事を気になる様になったんだ」

 

 小学校の頃はイタズラや悪さやった思い出は腐る程有るけど、モアちゃんには申し訳ないが、正直そう言う細かい事は殆ど覚えてなかった。

 

「小学校終わったら私引っ越しする事になってたから、その前に思いきって告白したんだけど、タモツ君はモテモテだったから、私なんて相手にして貰えなかったね……」


「ごめ、いい訳になっちゃうけど、モアちゃんそんなに昔から思われてるなんて知りもしなかったし、それにあの頃は俺硬派と言うかガキだったから、告白されたのを受け入れるって言うのは恥と思ってたんだよ……ごめんよ」

 

 そんな事を言っておきながら、一目ぼれした美人のレイカに告白して、奴隷のように扱われる3年間を送る羽目になったんだけどな。俺って本当に間抜けなバカだ。

 

 やっぱ、モアちゃんみたいな見た目が普通でも、心落ち着ける子が俺には合ってると痛感するわ。

 

「それに、俺の中学時代も酷いもんだったよ。彼女はもちろん、友達もほとんど出来なくて。散々な中学校生活だったよ」

 

「彼女居なかったの?」

 

「そうだよ。モアちゃんが俺の初めての彼女さ」

 

「なんかうれしいな」

 

 そう言うとモアちゃんは俺の腕をぎゅっと抱きしめてきた。

 

 俺はそんなモアちゃんにすこし体を預けた。

 

「俺モアちゃんの事、彼女に出来て本当に嬉しい」

 

「わたしも」

 

 モアちゃんは俺を見上げると、そっと目を閉じた。

 

 これはキスをしていいって事かな?

 

 だよな?

 

 きっとそうだよな?

 

 恋人なんだからキスしていいんだよな?

 

 俺は恐る恐るモアちゃんの唇に、俺の唇を重ねてみた。

 

 つまり、キスをした。

 

 モアちゃんは嫌がる事無く、キスを受け入れてくれた。

 

 モアちゃんの唇はとても柔らかかった。

 

 そして、モアちゃんの吐息が俺の顔を襲う。

 

 くう……もうダメ。

 

 気が変になりそう。

 

 このまま、先まで進んじゃう?

 

 さすがにそれはマズいよな。

 

 でも、今ならモアちゃん受け入れてくれるかも……。

 

 おっぱい触るぐらいなら大丈夫だよな?

 

 俺達恋人同士だし、それぐらいはしていいよな?

 

 だいじょうぶだよな?

 

 でも、モアちゃんに拒否された上にフラれたらたら、俺失意のあまりに死んじゃうかも……。

 

 

 なんて事を悶々と考えていたら、モアちゃんの唇が俺の唇からフッと失せた。

 

 モアちゃんは俺の方を向いて笑顔で言った。

 

「ありがとう! これで私たち本当に恋人同士だね!」

 

 モアちゃんは天使の様な笑顔でそう言った。

 

 ごめんなさい、ごめんなさい。

 

 ふしだらな事を考えてごめんなさい。

 

 こんな天使みたいな子に、俺は何て卑劣な事をしようとしてたんだか……。

 

 俺は数秒前の下衆な考えを激しく恥じた。

 

「ああ、俺達は恋人だよ」

 

「絶対に私の事捨てないでね」

 

「モアちゃんを捨てるわけなんて無いさ!」

 

 そんな話をしていると、遠くから声が掛かった。

 

 守衛のおじさんだった。

 

「すいません、そろそろ校門の鍵をしめるから帰ってもらえませんか~」

 

 時計を見ると午後5時前だった。

 

「ああ、すいません。ありがとうございました。すぐ帰ります~」

 

 俺達は母校の小学校を後にした。

 

 その日は、モアちゃんを駅まで送ると別れた。

 

 

 翌日学校に登校する。

 

 もちろん、モアちゃんと一緒だ。

 

 俺の乗る駅の改札で待っててくれた。

 

「タモツ君と少しでも一緒に居られる時間を長く取りたかったから、駅で待ってたんだ」

 

 なんて一途な可愛い子なんだろう。

 

 それも、駅と逆方向だろ?

 

 こんな子に慕われてるなんて、俺幸せすぎる。

 

 

 

 電車に乗り、学校の最寄り駅に行くとミサキが待ってた。

 

「よう! おはよう!」

 

「おう! おはよう! 何だタモツ? モアちゃんと手を繋いだりしちゃってずいぶんと仲良くなったな」

 

「いいだろ~」

 

「ゆるさね~!」

 

「いいじゃん、恋人なんだし」

 

 モアちゃんの手がさらにぎゅっと俺の手を握った。

 

「まあいいけどさ。なんか親友の私とモアちゃんの仲が裂かれた様でなんか悔しいな」

 

「悔しかったら、男に生まれ変われよ」

 

「出来たらとっくにしてるわ!」

 

 ミサキが俺の胸ぐらを掴んだ。

 

「やめてよ。ミサキちゃん」

 

 モアちゃんが本気で止めに入る。

 

「モアちゃん、これ喧嘩じゃないから心配しなくていいよ」

 

「そうなの?」

 

「そうだ。これは私の挨拶みたいなもんさ」

 

「不器用なミサキにとったら、これは最大限の愛情表現みたいなもんだ」

 

「不器用が余計だ!」

 

 俺は軽く背中を叩かれた。

 

 俺達は、こんな感じで他愛も無い話をしながら学校に向かった。

 

 

 教室に入って、隣の席の男子と雑談をした。

 

 昨日、オリエンテーションの前に俺に話掛けて来た村田(あつし)だ。

 

 アツシは人懐っこさそうな笑顔で俺に話掛けて来た。

 

「ところで、タモツ、クラブの方は決まったのか?」

 

「きまったぞ」

 

「おう、そうかそうか。それは良かった。決まって無かったら俺の入ったクラブに誘おうかと思ったんだが、それ聞いて安心したよ。ところで、どんなクラブなんだ?」

 

「料理クラブなんだ。まだ部員が人数集まってないから正式なクラブじゃないんだけどな」

 

「そっか、俺の方でも入って無い奴居たら声掛けてみるよ。何人足りないんだい?」

 

「あと1人だけなんだけどな~」

 

「1人か~。心当たりが無いわけじゃないんで聞いてみるよ」

 

「ありがとう。よろしくな」

 

 話遮る様なタイミングで、先生が入って来た。

 

「はい、座って座って!」

 

 先生が大きな声で生徒を制圧すると、朝のHRが始まった。

 

「HR始める前に転校生の紹介しますね。今日からクラスに入ることになった新しい仲間です。入ってらっしゃい」


 先生は手招きすると、生徒を廊下から教室に招き入れた。

 

 その転校生は、先生の前で止まらずに先生の横を通り過ぎて、早足で俺の方に向かって来た。

 

「ちょ、ちょっと? どこ行っちゃうの?」

 

 先生は転校生が予想外の方向に進んでるので、狼狽えている。

 

 その姿を見た俺は椅子から転げ落ちそうになった。

 

 転校生の手には木刀が握られていた!

 

 そして転校生は殺意の有る目つきで俺を睨み付けた!

 

 ──ダン!

 

 そして木刀が振り降ろされ俺の机を襲った。

 

 激しい音が叩きつけられた机から発せられた。

 

「お! お前は!」

 

「犬! こんな所に逃げて来てたのか!! 探したぞ!」

 

 その転校生は俺を中学校時代の3年間、地獄におとしめたレイカだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ