初クラブ活動でモアちゃんとオムレツを作ってみたと言うか御馳走になりました
モアちゃんはエプロンを着けるとオムレツを作り始めた。
「オムレツって洋風の卵焼きって言ってたけど、どうやって作るんだ?」
「えーっとね、スクランブルエッグって知ってる?」
「卵をぐちゃぐちゃにかき混ぜて焼いたのだよね? 日本語だと炒り卵って言うのかな?」
「炒り卵程は火を通さないでね、半熟で止めて三日月の形に纏めたのがオムレツなんだ」
「モアちゃんの作るオムレツはトロトロで美味しいんだぞ」
「へ~」
「それじゃ、作るからちょっと待っててね」
モアちゃんはそう言うと、レジ袋から材料を取り出して使わない材料は冷蔵庫にしまった。
システムキッチンに残された材料は、卵、バター、マッシュルーム、チーズ、塩、コショウ、ケチャップだった。
この材料からどうやってオムレツを作るんだろうな?
「あのさー、料理クラブだし、折角だからモアちゃん作り方教えてよ」
「うん! いいよ!」
「ありがとー」
「最初は下準備をします」
モアちゃんは材料を手に取ると下ごしらえを始めた。
「オムレツは、火を入れ始めたら大忙しになるから、最初に準備を全部してから始めるんだよ」
そう言うと、マッシュルームを取り出し、流しで軽く洗うと薄切りにして、少量のバターで軽く炒めた。
「オムレツは殆ど火を入れる時間が無いから最初に材料に火を入れとくんだ。薄切りにしたら生でもいいんだけどね。次は卵の準備するよ~。卵を2つ割ってみて」
目の前に少し大きめの500ccのガラスの軽量カップがあった。
「この計量カップの中に割ればいいかな?」
「うん、お願い~」
俺は軽量カップに卵を二つ割った。
卵が新鮮なのか、黄身が割れないで綺麗に軽量カップの白身の中に黄身が浮かんだ。
「これかき混ぜればいいの?」
「ちょっ待ってね。その前にね、カラザを取るんだ」
「カラザ?」
「卵の黄身に白いぐにょぐにょしたのが付いてない?」
黄身を見てると、確かに黄身に白いのが付いてた。
卵なんてよく見ないからこんな物が付いてるとは初めて知ったよ。
「それをスプーンで取るんだ」
モアちゃんは手慣れた手つきで黄身の上下に付いてる白いぐにょぐにょした絡まったヒモみたいな塊をとった。
「それを箸で卵の白身を切るように混ぜるんだ」
「白身を切るってどんな感じでやればいいの?」
「白身を軽量カップの壁に押し付けて切る感じかな? ま、適当にかき混ぜちゃってもいいよ」
俺は言われたように卵の白身を切るように、カチャカチャとかき混ぜた。
「将くん、卵混ぜるの上手いね。プロ並みだよ!」
「ありがとう。でもさ、卵かき混ぜるのだけが上手くてもな~」
ミサキがからかうように言う。
「将のあだ名は今日からタマクンだな。タマは卵な、クンは…………意味無い」
「そんなあだ名イラネーし、センス無さ過ぎだし」
「ちぇ~っ!」
ミサキは俺があだ名を拒否した事を本当に悔しがっていた。
モアちゃんは脱線した話をオムレツに戻す。
「じゃあ、オムレツ焼くの始めるよー。最初は具を入れない基本のプレーンオムレツを焼くね」
「モアのプレーンオムレツは美味しいんだぞ。箸でつつくとトロトロ~って卵が出て来てジューシーですっごく美味しいんだぞ」
「そりゃたまらないな~」
「私は10個はいける。食べられる!」
「じゃあ、俺は12個いくぞ!」
「なにお! じゃあ、私は18個に挑戦だ!」
「そんなに卵ないから~」
モアちゃんが笑いながらそう言った。
「だよな~」
みんな大笑いした。
「プレーンオムレツ焼きます~」
モアちゃんはフライパンを火にかける。
そしてバターを取り出すと2cmx2cm位に切って、温まったフライパンにのせた。
するとバターが溶け出す。
半分ぐらい溶けた所で、フライパンを火から降ろして布巾の上にフライパンを乗せた。
「このまま火にかけてると、最初に溶けたバターが焦げちゃうから火から降ろすんだ」
「へ~」
「バターが全部溶けたら、今度は卵液を入れます。これからは大忙しだよ」
そう言うと、モアちゃんはフライパンを弱火のガスレンジに載せて、卵液をフライパンに流し込んだ。
「半熟になるまでかき混ぜてスクランブルエッグを作ります」
「オムレツじゃないの?」
「オムレツって実は大きなスクランブルエッグなんだ」
「へ~」
「卵はプライパンの周りから固まるから、半熟ちょっと手前に固まったらフライパンの中心に移しね。固まって無い卵液をフライパンの外に流すようにして半熟に固めるの」
そう言うと、半熟のスクランブルエッグが出来上がった。
これでも十分おいしそうだ・
焼けたバターと焼けた卵の匂いが混じりとても美味しそうな匂いがする。
「具を入れる時は、今入れるんだ。そしてここからが大変。このスクランブルエッグをオムレツの形に丸めます」
「がんばれ~」
ミサキからの応援が飛んだ。
「フライパンを思いっきり倒して上の方の生地を折り畳む様に丸めるんだ。ちなみに、フライパンの縁が広くて角度が緩いフライパンだと丸めるのが簡単だよ」
モアちゃんは手際よく卵の淵を箸で掴んで折り畳む様に折り返すと、綺麗な半月状に卵がまとまった。そしてフライパンの柄をポンポンと叩くと、継ぎ目が下に来て綺麗な表面を見せた。
「これで出来上がりだよ」
モアちゃんはお皿の上にオムレツをポンと載せた。
「おお! これは美味しそうだ」
そのお皿をミサキが取り上げた。
「じゃあ、最初のオムレツは私が食べるよ!」
「なぬ! 最初のオムレツは俺が食べるんだ。第一、ミサキは何にも手伝って無かったじゃないか!」
「私は食べ専なんだよ! 食べる専門なんだよ! そんな私から、唯一の仕事の食べるという行為を奪うと、このクラブでの私の存在価値が無くなってしまうんだよ!」
「意味わかんねーし! この記念すべきクラブ活動の記念すべき最初の1個目のオムレツは、モアちゃんの彼氏である俺が食うべき!」
「いや、モアちゃんの大親友である私が食べるのがすじ!」
「俺達はやはり、戦わざるを得ない運命なんだな!」
「よかろう! 私の鉄拳でお前を沈めてやる!」
「喧嘩しちゃダメ~!」
モアちゃんに止められた。
「よし! ここは平和的にじゃんけんで決めようか!」
「ああ、望むところだ!」
俺達二人は己の全ての力を載せた拳を振り下ろした。
「じゃんけん! ポン!」
──将のチョキが発動!
──岬のチョキが発動!
──明美のグーが発動!
「へ?」
「え?」
「やった~!」
担任の女教師の斎藤先生だった。
「なんだかわかんないけど、勝っちゃった! きゃははは!」
先生はいい歳して高い声を出して大喜びしている。
「先生……空気読めなさ過ぎだよ」
「くそ~! 割り込んできた先生にオムレツを取られるのか! まさに鳶に油揚げを攫われるだな!」
「え? 私、この美味しそうなオムレツ食べれるの? すごく良い匂いね! やったー!」
「悔しい」
「くっそー!」
俺とミサキは血の涙を流して泣いた。
「みんな喧嘩しないで、みんなの分も焼いたよ」
システムキッチンの上にオムレツが新たに3個並んでた。
「モアちゃんグッジョブ!」
「私はそっちの新しいの食うから。タモツこれ食え」
「俺も、モアちゃんの作りたて食いてー。ミサキそれ食えよ!」
「やだよ! お前が卵かき混ぜたんだろ? 責任取ってそれ食えよ! 私は100%純正のモアちゃんの手作り料理が食べたいんだ!」
「俺が手を加えたら罰ゲーム並の扱いになるのかよ!」
「常識的に考えてそうだろ!」
モアちゃんが止めに入った。
「喧嘩しないで~。タモツくんが卵をかき混ぜてくれたのは私が頂きます」
食卓にオムレツを運び、クロワッサンとミルクティーも机の上に並べられた。
「よし! 創部記念の食事会を開くぞ。部長のモアちゃん、頂きますの合図をお願いします」
「え? 私部長なの?」
「一番詳しそうだしね。モアちゃんに一票!」
「私もモアちゃんに50万オムレツだ!」
「決まりだな」
「ええ~?」
モアちゃんがしどろもどろになった。
「え、え~と、料理部の、初めての食事会を始めます。いただきまく!」
「『まく』だって。緊張し過ぎて、噛んだぞ」
「大丈夫か?」
「かわいい~」
先生は、モアちゃんが噛んだのを見て大喜びだ。
「いただきます!」
皆で挨拶をして、食べ始めた。
オムレツに箸を入れると、中からトロットした卵が出て来た。
そして、それを口に運ぶ。
口の中にトロットした卵とバターの味が広がる。
「うめぇぇ!」
そして山の芳醇な味と香り広がった。
「マッシュルームか!」
「こりゃおいしい! 本当に20個食べられそうだ」
「美味しいな! さすがカリスマオムレツ職人のモアだわ」
「先生、このクラブを作くるの勧めて本当に良かったわ~」
皆、モアちゃんのオムレツを絶賛しまくりだ。
「タモツ、モアちゃんのオムレツはケチャップを掛けても美味しいんだぞ」
「それも食べたいな~」
「じゃあ、すぐ焼くからちょっと待っててね」
モアちゃんは席を立つとすぐにオムレツを作って持ってきてくれた。
ケチャップを掛けたオムレツは、ケチャップの僅かな酸味が聞いて、さっきとは違う美味しさだった。
それから2個ほどオムレツを食べると、クロワッサンも食べ終え、紅茶を飲みながら雑談をした。
「ところで、先生何しにここに来たの?」
「何しにって、顧問だからここに来たんだけど?」
「良い匂いしたから、慌てて来たんでしょ?」
「違うよ。タモツくんに急ぎの伝言有って来たんだった」
「ホントかな~?」
「本当よ。明日転校生が来るから、その案内役をタモツくんにやって貰いなさいと教頭先生に言われてね、それを伝えに来たのよ」
「この時期に転校生って珍しいですね」
「でしょ? 私も少しおかしいと思ったんだけど、なんか校長のコネで入って来る子らしいのよ。本命の進学校落ちて、滑り止めに入った子じゃないのかな?」
「なるほどね~。でも、俺この学校に入ったばっかりだから案内出来る程詳しくないけどいいんですか?」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。案内役って言うのは名目上の話で、私が聞いた話だと転入試験を満点で突破した転校生だから、この学校で一番成績のいいタモツ君に面倒を見させて、切磋琢磨させて二人で勉学に励んで貰いたいらしいって意図らしいのよ。教頭はこれを期に、うちの学校を東大進学校にさせたいらしいのよね」
「そう言う魂胆なのか」
「タケシってバカだったんじゃないのか?」
ミサキが俺の成績のいい事に驚いてる。
「うっせー! これでも入学試験の成績が一番良かったんだよ!」
「そうなのよ。タモツ君はこの学校の入学試験で一番の成績で合格したのよ」
「マジなのか!」
疑いの眼差しだったミサキの表情が女神の様に微笑んだ。
「遂に頭のいい友達が出来たぜ! やった~、これから毎日宿題写して楽出来るぜ!」
「だれが、お前に宿題なんて見せてやるか!」
「マジかよ! 私たち親友じゃなかったのか?」
ミサキはマジ泣きしていた。
先生は腕時計の時間を見て、席を立った。
「あ、そろそろ私、職員室に戻らないといけない時間ね。タモツくん、色々思う事は有ると思うけど、案内役よろしくね」
「解りました」
先生はそう言うと職員室に戻っていった。