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モアちゃんの過去とミサキの罪

初回投稿時の物が過激すぎたので、内容に修正を入れました

「ウチはな、中学校2年生の春に大阪からこっちに引っ越して来たんだ」

 

 ミサキは、とつとつと過去を語り出した。

 

 ………………

 

 2年生に上がってすぐの春休み、ウチの親の都合で大阪から東京に引っ越して来た。

 

「キミを紹介するから、ちょっとここに待っていてくれ」

 

 先生はウチを廊下に待たせ、教室に入っていった。

 そして騒いでいる生徒を一瞥(いちべつ)して、通る声で言った。

 

「おい! HRの時間だ。みんなすぐに席に着け! 今日は2年に上がって初日だが、新しい仲間を迎えるぞ! 入って来なさい。大阪の中学校から転校して来た、杉本(すぎもと)(みさき)さんだ。みんな仲良くしてやってくれよ。それじゃ自己紹介してくれ」


 先生にそう言われたウチは最初が肝心と、いつもよりずっとテンションを上げて元気よく自己紹介をした。

 

「大阪から来た、元気いっぱいの女の子! 杉本岬です! みんな仲ようしてーな!」

 

 掴みは抜群だった。

 教室がざわついた。

 

「おお! 大阪弁だ!」

「すげー! 本場の大阪弁を初めて聞いたぜ!」

「なんか、凄く明るくて可愛いね~」

 

 ウチは一瞬でクラスのスターになった。

 

 休み時間になると、ウチの周りに多くのクラスメイトが集まった。

 

「ミサキちゃん、なんか面白い事言ってよ~」

「大阪で流行のギャグお願いします~」

「大阪の人ってみんな面白いよね~」

 

 クラスメイトは口々にウチの事を面白い人と言う。

 大阪人=お笑い芸人のイメージが有るせいか、みなウチに笑いを求めた。

 ウチは至って普通で、そんな面白い人間じゃないんだけどな……。

 

 でも、ウチが言う軽い冗談が、全てウケてとても楽しかった。

 

 

 でも、すぐに飽きられた。

 だって、ウチは面白い人じゃ無いんだもん。

 

 

 最初はウチの周りに寄って来た人も徐々に減り、気がつくと暇つぶしにウチをからかいにイジリに来る人しか残らなかった。

 

 クラスの女の子の一人が面白半分にウチをイジリに来た。

 

 中学生なのに化粧をして長髪をブロンドに染め縦ロールにした、お人形の様なかわいい感じの子だった。

 

「ミサキってほんと話し方、おかしいよね」

 

 おかしい?

 

 面白いじゃ無くて、おかしい?

 大阪弁じゃおかしいのか?

 標準語離せないとおかしいのか?

 大阪弁じゃ悪いのか?

 

 どうせウチは、あんたみたいに可愛くなくておかしい女だよ!

 

 ウチの心の中で何かがブッツリとキレた。

 

「うぜーんだよ! 黙れ! 大阪人が全員お笑い芸人だと思うなよ! ウチは普通の人間なんだよ!」

 

 人形の様な女の子は、ウチの罵声を浴びせられると泣き出してしまった。

 

「ごめん……」


 ウチは謝ったが、クラスメイトの白い目と陰口がウチに突き刺さった。

 

「あいつ、人気者と勘違いして調子コイてるな!」

「アスカちゃん、なんであいつに怒鳴られてるの?」

 

 それを機にウチへのイジリはイジメに変ったんだ。

 

 

 靴の中には残飯が入れられ、

 ノートは破られ、

 体操着は流しに捨てられた。

 

 地獄の様な日々が続いた。

 

 友達が誰も居ず、誰にもイジメられてる事を打ち明けられなかった。

 

 

 ウチがイジメられ始めると、誰も周りに寄って来なくなった。

 

 ウチは学校に行くのが嫌になった。

 

 そんな中、一人の女の子だけがウチに声を掛けてくれた。

 

 モアだった。

 

 ウチにはモアが天使に見えた。

 

 ウチの話を聞いてくれた。

 

 それだけで嬉しかった。

 

 

 だけど、それがモアの不幸の始まりだったんだ。

 

 

 今度はモアがイジメの標的になった。

 

 それを機にウチへのイジメはピタリと収まった。

 

 

 ウチがやられてた事、それが更にエスカレートしてモアを襲ったんや。

 

 

 カバンの中に残飯が入れられ、

 ノートには死ねと書かれ、

 体操着は焼却炉で生ごみと一緒に燃やされた。

 

 

 ウチはイジメから解放された事で、モアのイジメを止めようとせずに、モアから距離を置いた。

 

 ウチには、前みたいにクラスメイトが寄ってくるようになって。

 

 ウチは正直ホッとした。

 

 イジメから解放されたことが嬉しかった。

 

 

 ここでモアを助けたら、またウチがイジメの標的になるかと思うと怖くて助ける事が出来なかった。

 

 なんてひどい女なんやろ……。

 

 今思い出しても、あの時のウチをなぐり殺してやりたい。

 

 

 そして、しばらくするとモアは心が折れて学校に来なくなった。

 

 登校拒否になったんや。

 

 ウチは自分の弱さを悔いた。

 

 

 せめてもの罪滅ぼしにと、モアの住む大きな家に毎日ノートを届けに行った。

 

 

 最初は会ってくれなかったモアだけど、一週間ぐらい経つと会ってくれるようになった。

 

 そして、前みたいに話を聞いてくれるようになった。

 

 モアはウチには陽気に話してくれるようになったが、学校には行きたくないと言う。

 

 

 それでも嬉しかった。

 

 ウチに話してくれるのが嬉しかった。

 

 

 そしてウチに罪の意識が圧し掛かった。

 

 

 ウチのせいでモアがこうなってしまった。

 

 ウチの弱さのせいでモアをこんな目に遭わせてしまった。

 

 でも、モアは一度も、ウチがモアの事を守らなかったことを責めなかった。

 

 

 本当に、ウチにとって天使のような子だった。

 

 ウチは決めた。

 

 この子を守りきると。

 

 守るためには力が必要だ!

 

 

 ウチはフルコンタクトの空手道場に入門し必死で死ぬ気で鍛錬をし、力を手に入れた。

 

 1年ほど空手道場に通うと、師匠も驚くほどのスピードで上達をして、ウチはモアを守るだけの自信を手にした。

 

 

 三年生に進級した事を機に、ウチは嫌がるモアを無理やり学校に連れ出した。

 

 力を手にしたウチが常にモアの横に居る事で、イジメられることが無くなり、学校でも明るい表情を見せてくれるようになった。

 

 

 モアが陽気になったお蔭で、友達も徐々にできて、夏休み前には何人かの男の子から告白もされるようになり、彼氏が出来た。

 

 彼氏が出来た事をモアから聞いた時は、二人で本当に喜び合った。

 

 

 そして夏休みに入って数日経ったある日、モアから打ち明けられたんや。

 

「私、今日、彼氏とデートなんだ」

 

「ええな~。ウチ、デートどころか彼氏も居ないのに、モア進んどるな~」

 

 

 その日の夜、モアから電話が掛かって来た。

 

 

「どうやった? デート上手く行ったか?」

 

 返事は無く無言で泣き声だけが聞こえた。

 

「どうしたんや? 何かあったんか?」

 

 モアちゃんが、震える小声で言った。

 

「私、騙されてたの…………遊ばれてたの…………私と誰がデート出来るかを…………賭けられてたの…………」

 

 それで電話が切れた。

 

 

 その日の深夜、また携帯が鳴った。

 

 

 モアの母親からだった。

 

「娘が…………自殺を(はか)りました」

 

 ウチは病院に大急ぎで向かった。

 

 お風呂場でのリスカだった。

 

 モアは、発見が早かったので一命を取りとめた。

 

「ごめんな、モア、ウチが無理に学校に連れて言ったせいで……」

 

 

 ウチはモアの彼氏に問い詰めに行った。

 

 

 モアの彼氏を駅前のコンビニで見つけた。

 

 駅前のコンビニで友達とダベっている彼氏を見つけた。

 

 その友達に見覚えが有った。

 

 全員モアに告白した男達だった。

 

 そして、そこに見た事有る女も混じっていた。

 

 私がイジメられる原因の発端となった、あの時怒鳴りつけた人形の様な縦ロールの少女だった。

 

 アスカが言った。

 

「モア、気が狂ったように泣き叫んでたけどちゃんと帰ったか?」

 

「お前ら何をした?」

 

 彼氏が言った。

 

「モアの鳴き声最高だったぜ。あいつにデートって言ったらノコノコ来てさ、俺がキスしてやったんだけど、俺たち全員揃ったとこで、モアのキスを賭けた遊びだったって教えてやったら、気が狂ったようにぎゃあぎゃあ泣き叫んで最高だったよ!」

 

 ウチに向かい、勝ち誇ったようにアスカは言った。

 

「きゃはははは! モアの鳴き声超ウケる。ミサキも泣かしてあげようか? ただし、ミサキの場合はもっとハードなやつだけどね! 妊娠しない様に神様に祈っときな!」

 

 この女がウチや、モアに嫌がらせした犯人で、この取り巻きの男達を使ってモアに酷い事をやったのか……。

 

 ウチは一瞬で全てを悟った。

 

「神様に祈るのはお前の方だ! ウチに殺されない様に祈っとくんだな!」

 

「うっざ! 犯ッちまおうぜ!」

 

 男たちがそう言うと、ウチを襲って来た。

 

 ウチは一瞬で男たちの股間を渾身の力で蹴り上げ、地面に這いつくばらせると、アスカを襲った。

 

 ウチはアスカに馬乗りになり、顔をぶん殴り続けた。

 

 何度殴っただろう?

 

 怒りで我を忘れて何度殴ったのか覚えてない。

 

 ウチが正気に戻ると、アスカは白目を剥いて気絶していた。

 

 

 その日以来、モアは学校に出る事は二度と無かった。

 

 ウチが悪いんや。

 

 ウチが無理やり学校に連れ出したせいなんや。

 

 更に言うなら、ウチが自分のイジメを自分で解決しなかったせいなんや。

 

 

 二度と同じミスは起こさない。

 

 絶対にモアを守ると。

 

 その時から、ウチはモアちゃんのナイトとなる事を決意したんや。

 

 

 ………………

 

 

 ミサキが掃除の手を止め、俺に向かって真顔で話した。

 

「あのな、もし、モアと付き合っているのが本気じゃ無く遊びなら、今すぐモアの元から去ってくれ。今なら私はお前を許せる。でも、今後も付き合う気なら、モアを悲しませることをしたら、絶対に私はお前を許さないからな。それでも付き合うと言うのならば付き合えばいい」


「俺、モアちゃんの事が本当に好きなんだ。モアちゃんの横に居ると心が落ち着くんだ。俺さ、誰にも言ってないけど、中学時代に奴隷の様に扱われててな。モアちゃんと居ると、その事を忘れられて、心が本当に落ち着くんだ」


「お前もいろいろあったんだな……。もう一度確認するが、騙されたとはいえ彼氏の居た女だ。それでもモアを彼女として付き合えるか?」


「ああ、もちろんだ。彼女にとっては初めての彼氏じゃないかもしれないが、俺はモアちゃんの立派な彼氏になってみせるさ」


「それをお前の口から聞けて安心したぜ。モアはお前になら任せられるな」


「ああ、俺に任せてくれ。きっと幸せにしてみせるさ」



 廊下から足音が聞こえ、モアちゃんが部屋に戻って来た。

 

「ただいま~。買って来たよ~」


「掃除終わったから、モアちゃんご飯頼む~」


「俺もお腹空いてたんだ。ご飯頼むよ」


「うん! わかった~!」


 モアちゃんは食材をキッチンの上に揃えるとオムレツを作り始めた。

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