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オリエンテーションと言う名の新入部員勧誘会

 入学して二日目の今日は授業が無かった。

 

「今日は1時間目に身体測定をして、その後にオリエンテーションをします。1組は2組と合同で身体測定をするので、男子は1組に残り、女子は2組へ行って体操服に着替えて待機している事。いいですね」

 

「はい!」元気な返事が、どこからともなく数名の生徒から発せられた。

 

 俺はモアちゃんとミサキと別れ、体操着に着替えた。

 

 着替え終わって暇なので席に座り窓の外を見ると、お祭りのような感じで出店の様な物が校庭中に出ていた。その出店の様な物には、『新入部員歓迎!』だの、『部員募集中!』の、のぼりや看板が立てかけられていた。

 

 出店の設営準備で忙しく動き回る2-3年生の先輩達をぼーっと眺めていると、一人のチャラ男っぽい男子生徒が話しかけて来た。

 

「俺、村田(あつし)だ。よろしくな」

 

「俺はタモツ。よろしく」

 

 俺は笑顔で挨拶を交わした。

 

「ところで、お前、今日のオリエンテーション、どこのクラブに入るか決まってるか?」

 

「オリエンテーションて、何だ?」

 

「クラブの勧誘会だよ。今校庭で慌ただしく先輩達が準備しているだろ? あれの事だよ。俺は運動会系としか入るクラブを決めてないんだけど、お前は何処のクラブ入るか決めてあるのか?」

 

「いや、まだ決めてないな」


「そか。それじゃ、俺と一緒にオリエンテーション回らないか?」

 

 そうか、高校生活って言えばやっぱクラブ活動だよな!

 でも、どうせ入るなら、モアちゃんと一緒のクラブがいいな……。

 

「俺、友達と相談してから決めるからまだ何とも……」

 

「お前、友達いるのか??」

 

「いるさ!」

 

 モアちゃんとミサキの2人だけだけどな。

 

「なんか寂しそうに一人で窓際に座ってたから、友達居無さそうで可哀想な奴に見えたから声掛けたんだけど、友達居るなら余計なお世話だったな。すまんかった、またな~」


 アツシと言うチャラ男っぽい男子生徒は俺の元を去ると、また寂しそうに一人で座ってる奴に声掛けていた。

 

 アイツ、チャラ男風の見た目と違って、結構気の利くいい奴なのかもしれないな……。

 

 

 身体測定が始まるので俺は案内の男の先生に着いて体育館向かった。

 男子は体育館で、女子は保健室で身体測定だ。

 

 まあ、学園物のマンガやアニメだと身体測定では女子の身体測定を覗きに行くイベントが発生するんだが、そう言うのは一切無く、何事も無く身体測定は終わった。

 

 身体測定が終わりモアちゃんと、ミサキが1組の教室に戻って来た。

 

 俺はミサキに声をオリエンテーションの事を聞いてみた。

 

「オリエンテーションて知ってるか?」

 

「さっき先生からその言葉を聞いたんだけど、それは一体何なんだ?」


「クラブの勧誘会らしいぞ」


「なるほどね~」

 

 

 担任の女教師が入って来た。

 手には、印刷物の束を抱えて持っていた。

 

「はい、これからオリエンテーションの説明するから席に座って座って! 説明のパンフレットを回すから、一部取ったら後ろの席に回してね」

 

 オリエンテーションのパンフレットが全員に行き渡ると、担任の斎藤(さいとう)明美(あけみ)先生が説明を始める。

 

 入学式当日に俺がカンニングをしたと言う事で激しく糾弾した30代半ばの行き遅れの赤縁メガネの女教師だ。あの時と違って、言葉遣いや態度にそれ程刺々(とげとげ)しさは無い。

 

「うちの学校ではクラブ活動は必須で必ずどこかのクラブに所属してもらいます」

 

 一部の生徒から「え~!」と声が上がる。

 

「クラブ活動の参加を強制している以上、クラブの設立条件はかなり甘くなっているので、入りたいクラブが無ければ好きなクラブ作って構わないから。ただ、クラブ活動は一人部活とかは認められてないからそれなりの人数集めて貰う事になるけどね。もっとも、わざわざクラブを作らなくても既存の部活には色々と有るから大抵は入りたいクラブが見つかると思うわよ。詳しいクラブの内容についてはパンフレットを見てくださいね」

 

『オリエンテーション:充実した高校生活を送る為のクラブ活動のすすめ』と言うパンフレットを見てみると、様々なクラブが1クラブ1ページを割いてイラスト混じりで説明されていた。野球部、陸上部、剣道部と言ったような定番のクラブから、TVゲーム研究会、スマホ研究会、サバゲー同好会と言ったどう見てもゲームしかしてないクラブから、超常現象研究部やら帰宅部なんてのまであった。

 

 帰宅部のぺージを見てみると、殆ど文字の書かれてない真っ白いページの上方に『週1度必須活動日に30分集まって雑談を話すだけの部活。必須活動日の参加は自由です』と書いて有った。文字通り帰宅を優先して部活動をしない為の部活だった。活動人数を見てみると24人とそれなりの部員が居て、需要がそれなりにあるのか意外と人数の多いクラブである。

 

「今日はどこかのクラブに所属したら、そのままクラブ活動をして、帰宅して下さい」

 

 そう先生が言うと、オリエンテーションの説明が終わり、クラブ探しに向かう事になった。

 

 先生が教室を出てしばらくすると、モアちゃんとミサキが俺の横にやって来て、俺に話掛けて来た。

 

「タモツくん、私ミサキちゃんと話し合ったんだけど、タモツくんも良かったら私たちと同じクラブに入らない?」

 

「お、いいね~。俺もそれを言おうかと思ってたんだ」

 

「やった~!」

 

 モアちゃんの笑顔が可愛い。

 

「タモツ! モアの彼氏として満点のなかなかいい返事だな」

 

 ミサキが笑顔で親指を立てて、グッジョブの仕草をした。

 

「入るクラブは決まってるのか?」

 

「まだ決まってないけど、私はモアと同じクラブなら、どこでもいいや」

 

「タモツは?」

 

「俺もモアちゃんと同じクラブならどこでもいいかな?」

 

「じゃあ、モアが決めたクラブに入ろう」

 

「だな」

 

 俺とミサキはモアを見つめる。

 モアちゃんは困った感じで、オロオロとしていて可愛い。

 

「え~! わたしが決めるの? いいの? 本当に?」

 

「ああ、決めてくれ!」

 

「じゃぁ、盆栽クラブ」

 

「渋っ!」

 

 ミサキがズッコケるような感じで言う。

 

 盆栽クラブかよ!

 確かに渋いよ!

 女子高生のやる部活じゃないな。

 

 俺がパンフを見てみると、そんな盆栽クラブはもちろんの事、園芸部も無かった。

 

「うそうそ! 冗談だよ~。でもさ、タモツくんも入るとなると体育会系は入れないね」

 

「どうして?」

 

「だって、タモツくん男の子でしょ? 体育会系は大抵男の子と女の子で部活が別れてるから……」

 

「そう言われるとそうだな」

 

 言われてみると確かにそうだった。

 陸上部も男子陸上部と女子陸上部に分かれてるし、野球部も男子は野球部と女子はソフト部に分かれていた。

 

「よしタモツ! お前は女装をして女部員として入部するんだ! 女の子の生着替えも見放題だぞ!」

 

「ちょっ! まてまて、それ犯罪だし、さすがにバレるだろ!!」

 

「なに、ギャグにマジレスしてるんだよ。友達でもドン引きするぜ」

 

 く~!

 ギャグなのかよ……。

 

 モアちゃんはその事についてはスルーして話を進めた。

 

「じゃあ、運動会系以外のクラブになるね」

 

「文化会系か~。モア、何か入りたい部活あるか?」

 

 モアちゃんはパンフレットをめくって、パンフレットをのとあるページを開いた。

 

「ここに入りたい!」

 

 見るとそれは『料理クラブ』だった。

 

「お! いいね~。モアちゃん料理作る係で、俺食べる係」

 

「いいねいいね! モアが料理長で、私も食べる係だ」

 

「やった~!」

 

 モアちゃんは自分の勧めたクラブに皆が賛成してくれて大喜びだ。

 

「よし、早速料理クラブに入りに行こうぜ。えーと、このパンフレットによると、料理クラブは家庭科室か」

 

 俺達はさっそく、別館にある家庭科室に向かった。

 

「すいません~」

 

 返事は無かった。

 もう一度、大きな声で声を掛けてみた。

 

「すいません~!!」

 

 やはり返事は無かった。

 家庭科室は静まりかえり、誰も居なかった。

 

「おかしいな~。パンフレットの募集ページ見ると、オリエンテーションの時間中は家庭科室で募集してるはずなのにな~」


「どうする?」


「どうするか?」


「他のクラブに入る?」

 

「いや、私はもうモアの料理食べる口になってるしな」


「俺もモアちゃんの料理食べたいしな~。パンフレットの活動場所が間違えてるのかもしれないし、とりあえず先生のとこに行って聞いてみるか」



 俺達は職員室に向かい担任の明美先生に聞いてみる。

 

「料理クラブね~。ちょっと調べてみるわ」


 先生は机の上に置いて有るノートパソコンのキーボードをパチパチと叩く。

 

「ああ、ごめん。このパンフレットを作ったのは去年の年末だったんだけど、3年生が卒業して部員が居なくなって、廃部になっていました」


「え~! モアの作ったご飯食べる気、満々だったのに~」


「な~。俺もモアちゃんの作ったご飯を毎日食べるのが楽しみだったのにな」


「なに? キミたち、クラブはゴハン目的なの?」


「そうですよ。モアにご飯を作って貰って食べる以外に、料理クラブに入る目的なんてある訳無いですよ!」

 

 明美先生が、すこし遠い目をしながら、つぶやくように話し始めた。

 

「手作りごはんか~。最近、コンビニごはんばっかりだからな……炊き立てのつやつやしたご飯食べたいな……アツアツの焼肉食べたいな……焼き鮭も、焼きたらこもいいな………………。よし! 決めた! 私が可愛い教え子の為に顧問になってあげるから、クラブを作りなさい!」

 

 先生はパソコンを叩くと、コピー機まで行くと印刷した書類を持って来た。

 

「ほら、これが申請用紙よ。本年度のクラブ設立期限は4月30日迄だから、それまでに用紙の必要事項を埋めて、私に提出しなさい。顧問の欄は私が名前を埋めておくから、クラブの設立に最低必要な人数を4人書いて、私のとこに持ってくるように。どう? 見つけられる?」


「あては無いけど、一人なのでどうにかなると思います」


「頑張るのよ。まぁ、期限は一ヶ月近く有るし、急がなくても大丈夫だわ。仮部室とか用意しないとね……。ちょっと来てくれる?」


 先生は意外と親切で優しい人だった。


 前にカンニングを疑われた時は、眉間に皺を寄せた性格の悪いオバさんにしか見えなかったけど、今は気のいい頼りがいの有るお姉さんに見える。

 

 先生に連れられて。家庭科室に戻って来た。

 

「ここは、広いけど授業で使われてるからな~。家庭科準備室でいいかな?」

 

「使えるならどこでも……。ただ、骸骨の標本とか有るようなとこはダメです。お断りです」

 

「準備室って言っても、理科準備室じゃないんだから、そんな物無いわよ」

 

 先生は笑いながら、準備室に案内した。

 

「ここの第二家庭科準備室がいいわね。ここ暫く使ってないから、ホコリが積もってるけど、キッチンが付いてて、テーブルもあるからちょっとした隠れ家レストランと言った雰囲気よ。大きな食卓も有るし、冷蔵庫も有るし、料理クラブには最適ね」


 その部屋は確かに言われる通り、ホコリは積もりまくっていたが、ダイニングキッチンの様な素晴らしい造りの部屋だった。先生が言うには、本来はこの部屋で家庭科の先生が授業で料理を作る前に練習で料理を作る為の部屋だと言う。

 

 キッチンには水道と流しと、IHレンジ、電子レンジ、オーブン、冷蔵庫と一通りの調理器具が用意されていた。

 

 3人の口から感嘆の声が漏れる。


「ここいいな」

「これ凄いね」

「これは素晴らしい」


「じゃあ、決まりね。部員の勧誘頑張るのよ!」


「はい!」


「じゃあ、私は職員室に戻るけど、クラブ活動が本格的に始動したら顧問の私も参加するから、頑張ってね!」


 先生はそう言うと職員室に戻っていった。

 

 

 ミサキが冷蔵庫を開いて声をあげる。

 

「あちゃー、冷蔵庫の中身がすっからかんだな~。モアちゃんの料理を早速食べたいんだけど、こりゃ買い出しいかないとダメだな」

 

「それに掃除しないとダメだね」


「よし、モア。悪いんだけど、早速買出しに行って来てくれないか? 私とタモツで大掃除しとくから」


 そう言うと、ミサキちゃんと俺は2,000円ずつ出して当面の食材をモアちゃんに買ってきてもらうことにした。


「わかった。買ってくる~」


「悪いな。俺達大掃除しとくから買い出しの方頼むよ」


「うん! 何食べたい?」


「そうだな~。料理の基本と言えばオムレツかな?」


 ミサキがそう言った。

 

「俺、オムレツって名前を聞いた事は有るんだけど食べた事無いんだが、どんな料理なんだ?」


「洋風の卵焼きだよ! 中にチーズとかマッシュルームとか入れると美味しいよ」


 モアちゃんが元気にそう答えた。

 

「なんかうまそうだな。じゃあ、掃除頑張るから買い出し頼むよ!」


「はい! じゃあ、行ってくるね」


 モアちゃんはそう言うと元気な足音を立てながら家庭科室を後にした。

 

 俺達は掃除を始めた。

 

 すると、ミサキが言った。

 

「やっと、モアが居なくなって二人っきりになれたな。この前の階段での続きなんだが……」


「またやるのか!」


 おれは身構えた。


「やらねーよ! 殴り合いじゃねーよ!」


 じゃあ、あのYシャツのボタンを外したエッチい事の続きか??

 あれは実に惜しい事をした……。


「じゃあ、お、おっぱいの続きか?」


 俺は顔を赤らめて言った。


「お前アホだろ?」


「冗談だよ! 冗談」


 俺のこめかみを、滝の様に汗が流れる。

 危うく、バカ扱い確定されるとこだったぜ。

 

「この前は、私の勘違いもあってあんな掴みあいの喧嘩になったが、お前がモアの彼氏になるなら一度ちゃんとモアと私の事を話しておかないといけないと思ってな」

 

「どんな話なんだ?」

 

「モアと私の話さ。掃除しながらでいいから聞いてくれないか? 彼氏になるお前は知らないといけない話だ」

 

「おう!」

 

 ミサキは、改まった声で話し始めた。

 

「モアは中学時代酷いイジメにあってたんだ。しかも私のせいでな」

 

 ミサキはとつとつと、思い出したくない過去を話し始めた。


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