志望校のランクを落としたのでもはや学力チート状態でした
高校の入学式が無事終わり、終業のホームルームが終わると、担任の女教師に俺だけ残れと言われた。
担任の女教師は婚期を逃して行きそびれた感じの30代半ばの英語教師で、赤い縁のメガネを掛け、歳に似合わないボブヘアーを後ろロールにしたかなり古臭い髪型をしている。
耳ざわりなキンキン声が特徴の斎藤明美だ。
こりゃ、行き遅れるのも当然かな?
と、言った感じの女教師だった。
俺は担任に連れられて職員室隣の生徒指導室に連れて来られた。
生徒指導室とは名ばかりで、普段は会議室として使われてるのか長方形に配置された会議机が並ぶ部屋であった。その部屋に、一年の担任全員と、入学式で見かけた校長先生や教頭先生等の幹部の先生たちが、俺を待ち構えていた。
俺は椅子に座るように促され、座ると担任の斎藤先生が強い口調で話し始めた。
「キミは入学試験で国数英社理、全教科100点と言う前代未聞の成績で試験をパスして入学して来たのだけれども、これは明坂将君の実力なのかな?」
俺は女教師が何の意図で質問して来てるのかがさっぱり解らなかった。
「質問の意味が良くわからないのですが、何をおっしゃりたいのでしょうか?」
「不正行為をしたのではないかと聞いている。事前に入手した試験問題の解答を丸暗記して試験に臨んだのではないかと言っているのです!」
ああ、カンニング疑惑かよ。
そりゃ、2ランク以上下の学校を受ければ100点満点は当然と言えば当然だし、全教科満点で有ればカンニングを疑われても仕方ないな。
普通2ランクも下の学校に進学してくる奴なんていないしな。
ま、言ってみれば『学力チート』みたいなもんだしな。
とりあえず、解って貰える様に弁解するしかないな。
「いえ、そのような事はしていません」
「そんなはずはない! 入学者の平均得点が68点で、キミを除く受験者の最高平均得点は82点なのに、全教科100点満点と言うのはおかしすぎます! 不正行為をしたのよね!? そうなのよね?」
かなりヒステリックな声だ。
うっざ―!
これだから行き遅れるんだよ。
おばさん!
顔はいいのに性格ねじ曲がり過ぎで笑うわ。
俺は女教師の態度に少しムカついたので、油を注ぐ様にニコリと笑いながら嫌味な言葉を浴びせた。
「いえ、そんな事はしてませんよ。とっても程度の低い、簡単なテストだからそんな事をする必要さえ有りません!」
実際は、涼風高校の試験問題に比べれば引っ掛け問題も無い、素直でとてもいい問題だったのは俺が一番知っている。
「嘘だ! こいつは絶対にカンニングをしていた!」
女教師がヒステリックに叫び続ける。
神経質そうな目が、赤い枠のメガネのレンズの奥で吊り上がる。
うざ!
マジウザ!
してねーよ、そんな事!
教頭先生が、ヒステリックな女教師をなだめる様に口を挟む。
「カンニングはしてないとしても、キミのこの成績だともっとランクが上の学校に余裕で入れる成績だと思うのですが、なんでキミはうちの学校を選んだのですか?」
「もちろん他の学校も受かりましたよ。でも、僕はどうしてもこの学校に来たかったのですよ」
「他に受かった高校は何処かね?」
「涼風高校です」
「涼風? あの東大に毎年20名の合格者を出してる、涼風高校の事かね?」
「ええ、その涼風高校です」
教師の間からざわめきが起こった。
女教師がヒステリックに叫ぶ。
「信じられない! こいつは嘘をついています! 再試験を要求します!!」
「キミの事を信じられない訳では無いのですが、信じていない先生も居るみたいなので、形だけでもここに用意したテストを受けて貰えませんか? もちろん、合格点に達していなくても、入学の取り消しはしませんから安心してください」
教頭はそう言うと校長に向かって、「それでよろしいでしょうか」と言うと、校長は無言で頷いた。
「キミもそれでいいね?」
俺も頷いた。
「わかりました。いいでしょう」
女教師もそれで納得したようだ。
俺の目の前の机に、5枚のテスト用紙が配られた。
「制限時間は各30分で合計150分となります。はじめ!」
問題はどれも入学試験の時と変わらないレベルの問題でどれも解きやすかった。
ただ、英語の問題だけはやたら引掛け問題だらけだった。
だが、それも涼風高校の問題と比べれば可愛いものである。
俺は解答用紙を5~10分ペースで埋めた。
英語のテスト用紙の問題に単語の綴りのミスを見つけたので、嫌味ったらしく赤のボールペンで訂正を入れておいた。
俺はおよそ40分ですべての試験の答案を埋めた。
採点をしている先生達から感嘆の声が上がる。
「これは凄いですな。100点です」
「こちらも100点です」
「満点です」
「完璧ですな」
英語担当の女教師はうつむいて黙っていた。
「斎藤先生の方のどうですかな?」
「100点でした……信じられないですが、満点でした」
「彼の実力は本物だったようですね。さ、斎藤先生、疑ったことを明坂君に謝罪するのです」
「ごめんなさい。私が間違えてました」
斎藤先生はしおらしく頭を深く下げて謝った。
「斎藤先生頭を上げてください。僕は気にしてませんよ」
「ありがとう」
先生は目を潤ませてそう言った。
そんな先生が、なんか少し可愛く思えた。
教頭先生が言う。
「これからは全教師が明坂君の事を、全力でバックアップさせて貰います。何でも好きにやって貰って構わないし、気軽に何でも相談してくれたまえ」
俺は学力チートにより、先生たちの信頼と言う権力チートも手に入れた。
俺の高校生活は、明るい未来が保証された。