行き道と帰り道
「…からであって」
後5分で講義も終わりか。
優は今頃何してるんだろな。
12時過ぎだし、給食かな?
「今日の講義はここまで」
講義で使った教科書をカバンに入れる。
今日も午前中までだ。
超楽だな、最近。
がちゃ。
「おかえりなさい」
「おっ、ただいま」
あれ、そういえば午前中までなのか。
「ねーねー」
「ん?どした?」
「みてみて、テスト100点」
そう言いながら、優はカバンから算数のテストを出して見せてきた。
「ほんとだ。すごいな!」
優の頭をポンポンと撫でた。
「えへへ」
子犬みたいだな。
「よく勉強頑張ったな」
録画していたアマトーークを2人で観る。
今回はひじ神という運動オンチが出演するやつ。
この番組は優のお気に入りである。
たまにちょっと大人的な表現が出てきて気になるが…。
まぁ、優が好きだから毎週録画してある。
おれも好きだしな。
「あっ、今日はバイトがあるからお留守番してて」
「うん、お留守番まかせて」
いつもバイトがあるときはこんな感じだ。
そろそろ時間だな。
「んじゃ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい!」
「ピンポンがなってもいないふりだから」
「わかった!」
優に注意をして、玄関を出た。
僕は家の近くのロッテルアでバイトをしている。
時給はそこそこだが、そこで働いてる人たちがいい人なのだ。
特に店長にはお世話になっている。
今回も、優が来たことでシフトを増やしてもらえたし、いつもの1時間早めの出勤、いつもの1時間早めに帰れるようにしてくれた。
いとこの妹がって感じ話を通したけど。
ありがとう、店長。
いらっしゃいませー!
あー、疲れたな。
後1時間か。
早く帰りたいな。
いらっしゃいませー。
あれ、さっき入ってきた女の子が手振ってるよー、私かな。
いやいや、おれかもよ。
どっちも違うでしょ、口より手を動かしんさい!…あらー、かわいいわね。
そんな私語がレジの横にいる僕のところにまで聞こえる。
チラッ。
ほんとだな。
にしても、優に似てるな。
…というか、優じゃん!
なんでここにいるの?
目があったから手を振り返す。
「あれ、日野さんの知り合いですか?」
「あー、そうそう知り合いなんだよ」
まず店長のところに…。
「すいません。少し、いいですか」
「あー、妹さんね。いいよ」
とにかく優を事務所まで連れてきた。
「どうしてここに来た?」
「だって、和にいのとこに来たかったんだもん」
「そうじゃなくて、こんな夜遅くに1人で歩いてたら危ないだろ」
「だって…」
「だってじゃない」
「…ごめんなさい。ちょっと怖かったんだもん」
まぁ、そうだよな。
小学生でこんな遅くまで1人で家にいるのは怖いよな。
「怖くても暗い道を1人で歩くよりは、家の方が安全だから」
「はーい」
少し膨れた顔でバックを肩から掛けた。
「和にい。お仕事頑張ってね」
「ありがと。ちょっと待って」
優の頭をポンポンした。
「言っただろ、暗い道を1人で帰るのは危ないって。あと少しでバイトが終わるから、ここで待ってて」
「えっ。あ、うん、わかった!」
「んじゃ、おとなしくね」
僕は持ち場に戻った。
「日野、あげっていいぞ」
もうそんな時間か。
「はい。お疲れ様でした」
「「お疲れさまでーす」」
制服を脱いで、ロッカーにかける。
私服に着替えて、荷物を整える。
よし。
「帰ろっか」
「かえるー」
ここから家まで約25分くらい。
こんな田舎にロッテルアがあることがいまだに不思議だな。
「手、繋いでもいいー?」
「いいよ。ほら」
優と手を繋いで帰る。
一緒に帰るってなかなかいいな。
「最近ねー」
始まったか、優の最近の出来事話。
これはいつも30分くらい続くのだ。
楽しいこと、悲しいこと、頭にきたこと、全部が詰まっている。
小さいな発見も全部。
僕は優の全てを受け止められるようになれるだろうか。
いや、ならないといけないよな。
少し不安だな。
「でね、そのむしむしが逃げ出したの」
「そっか、きっとその友達が怖かったんだね」
「だね♪」
そんな話をしている間に僕のアパートに着いた。
「たっだいま」
「ただいま」
冷蔵庫をのぞく。
あれ、ご飯ときんぴらが残っている。
「あれ、まだ食べてないの?」
「う、うん、そうなの」
「そっか。じゃ、一緒に食べよっか」
「うん」
すーすー。
優は寝たみたいだな。
ご飯食べて、お風呂に入ったら眠たくなるよな。
テレビをつけ、音量を下げる。
もちろん優が起きないために。
おっ、本当にあったような怖い話が録画されてる。
…未視聴の表示がない。
観たのか、1人で。
だから、怖いって言ってたんだな。
「そりゃそうだよ」
優の頭を撫でる。
にしても、いい夢をみてるのかな。
気持ち良さそうに寝ている。
行き道は音楽を聴いて、帰りは優の話を聞きながら。
来るなとは言ったけど、来てくれて嬉しかったな。
「ありがとう、優」
僕もそろそろ寝ようかな。
明日は早めの講義があるし、朝食も作らないとな。
そうだ、優が100点とった祝いに何かおいしいものでも買って来ようかな。
こんにちは、意気揚々です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
最近涼しくなったと思ったら、まだ暑いですね。
灰色の服を着るのは要注意ですよ。
汗が、汗が…。
まぁ、そんな感じです。
次回も暇つぶし程度に読んでいただけると幸いです。
では。