星ふる聖夜に
暗い夜の中でランプの炎だけがほの赤く周りを染める。その光に照らされて木の根元に座っている少年と少女が見えた。少女は何かを心待ちにするような瞳で空を見つめ、少年は何かを悲しむような瞳で揺れる炎を見つめている。
しばらくして少女は無意識に自分の手を少年の手に重ねる。すると少年ははっと我に返り、少女に笑顔を向けた。
…その笑顔が引きつっているなど、少年自身は気付かずに…。
「…楽しそうだ、な…。」少年は明るく言ったつもりだが、その声は震えている。
「うん、もうすぐ星がふるから。」少女は曇りのない笑顔を少年に向けながら言う。
しかし、少女の笑顔が曇りのないものであるほど今の少年には辛かった。そして、少女が笑顔を浮かべるたび少年は少女の身に起きた不幸に対しての強い憤りが心の中で湧き上がる。
「…もう、星がふらなければいいのにな…。」それを吐き出すように少年は空を見上げながら思わずそう呟いた。
「どうして?とってもきれいじゃない。」少女は少年の口からそんな言葉が出たのが納得できないのか不思議そうに少年を見ながら理由をたずた。
「…だって…星が降らなかったらきっと、これからもっ…」しかし、少年は自分が言いたかったことを最後まで言い切ることは出来なかった。少年の目に今にも零れそうなほど溜まっていた涙が彼自身の喉を詰まらせたから…。それでも少年は抗うように目に力を込めて必死に泣くのを堪えている。
「…ダメだよ、そんなこと…。」けれど、少女はまた空を見上げながら寂しそうに事実を、少年にとって一番残酷な言葉を呟く。
「俺はずっと桜と一緒にいたいんだ!」それに反論するように少年が叫んだ瞬間、ついに限界が訪れ少年の目から堰を切ったように涙が溢れ出いく。少年がそれを懸命に拭うけれど、それをあざ笑うかのように後から後からそれが溢れ出しては止まらない。
仕方なく少年はそれを拭うのを諦め、少女に向かって一気に捲し立てる。
「何で、何がダメなんだよ!?なぁ、桜…桜は俺に約束守らせてくれないのか?俺が桜を一生幸せにするって約束を!……なぁ、桜…頼むから…頼むからそんなこと、言わないでくれよっ!!」
「…ごめんね。…でも…それは守らせてあげられない。」
少年の悲痛な心の叫びにも少女はその言葉に拒絶の色を消すことは無い。けれど、少女の体は彼の頭を胸に抱いて優しく撫でて、まるで幼子をあやす母親のように全てを受け入れて包み込んでいる。
「今までありがとね、薫。…私はね…薫といられて、本当に幸せだった。」
少女が言おうとしていることを言わせたくなくて何かを言わなければと思うのに、少年の喉は意味なく震えるだけで全く役に立たない。
「でもね…ダメなんだよ、薫。…私は…夢はもう、終わらせなきゃ。」
そう、これは少年の弱さと後悔が生み出した虚構の夢の繰り返し…。頭の中のどこかではこれが間違っていると分かっている。けれど、認められなくて少年は夢の中に溺れた。
「…きっと、薫はこれから幸せになれるんだよ。…だから、戻らなきゃ。」
俯いたままの少年からは見えないが、少女が眼の端に涙を浮かべながらはにかんだ笑顔を自分に向けてくれているのは予想できる。今までずっと待ったいてくれたんだろう。でも、彼がいつまでもぬるま湯のような夢に溺れていようとするから…彼が手遅れになってしまわないうちに彼女は彼に戻ってもらいたかったんだ現実の世界…彼女がもう一生戻れない、彼が戻らなければならない場所に。
「…もう、最後にしよう…。最後にこの星を薫と二人で見て…」
少女の言葉を遮るように少年は彼女の唇に自分の物をぶつける。
…いつだってそうだった。いつだって少女は少年の事を一番に思って行動し、少年は少女から都合の悪い答えを聞きたくなくてお互いの唇同士をぶつけるようにキスをする。
あの時最後まで話を聞くことが出来たのなら…あの時彼女の手を放すことが出来たのなら…あの時もっと強く彼女を抱きしめていたなら…あの時強引にキスをしたのが神社の軒下だったなら…あの病院の医師が彼女を助けられていたなら…いくつものならが彼の思考の中で堂々巡りを繰り返し暗い闇へと引きずり込む。
だから少年は小女の唇に自分の物をぶつけた。唇をぶつければどんな事もうやむやにしてしまえるから。…もう、何も考えたくない…このぬるま湯の中で一生を終えてしまえればいい…そんな投げやりな思いがいつも彼に彼女へぶつけるようなキスをさせる。
お互いの唇が銀の糸で結ばれるくらい長い長いキスをした。
お互いが空気が足りなくて頭が白くなるくらい濃くて激しいキスをした。
「…薫…私、私ね…薫のこと大好…」
「俺は愛してるッ!!」
「…………うん…。だから、戻ってほしいの。」
「…どうして…?」
「私、薫のこと大好きだったから、チャンスがあるならこれかかも薫に幸せでいてほしい!薫が私のこと愛してくれてるなら…私の最後のお願い、聞いてほしい。」
「……今、その顔って桜…狡過ぎるだろ…。」
少年は少女の願いを聞くのかどうか答えを出さなかった。その代わりに長い時間をかけて一言だけ泣き笑いをしながら言った。
「だって…絶対に聞いてほしい、最後のお願いなんだもん。」
そう言い切った少女の目から涙が零れ落ちた。そしてそれを合図とするかのように一つの流れ星が空を横切る。
「見て、薫!…きれい…!」少女が流れていく沢山の星を見ながらはしゃぎだす。
「…そうだな…。」少年も空を見上げながら言った。
夜空を流れ降る星々は少年の悲しみを洗い流す雨だったのか?
それとも、少年のちっぽけな決意を祝福する雪だったのか?
そのどちらだったのかは誰にもわからない。とにかく沢山の星々が降り続くその幻想的な光景が、二人の距離を近づけてゼロにする。少年と少女はまるでお互いの存在を確かめあうように、お互いの存在を刻み込むようにキスをした。
少年は気付いていた。自分がどちらの答えを出したのだとしても、これが彼女と一緒にいられる最後の時間であろうことに。だから、少しの隙間も許さないというように強く彼女を抱きしめて愛した。
少女も気づいていた。自分がここに留まれる、彼と一緒にいられるのはこれまでだと。だから、少年の強い愛を少しも残らず受け入れて愛された。
その激しく愛を伝え合う二人の上を先を競うとうに連なる沢山の星々が行き交っては消えていく…。やがて、最後の流れ星が空を横切ると、ランプの炎も最後の揺らめきとともに消え、少年と少女の姿は夜の闇に溶けていく。
こんにちは、もしくは初めましてシリウス=クリードです◇
気付いた人もいるかと…いてほしいなぁ~…なんですが
実はこれごく最近まで『星降る夜の切ない想い』で掲載してた物にいろいろ手を加えただけなんですよね。冬童話に出すように考えてるのヤツと設定が合うようにいろいろ手直ししてあわよくばこれもそれに出したいな…と。
てゆうか出品期間終わってた~~~~~~~~!!!
…あぁ、趣味の寄り道にはこれから気を付けないとなぁ~…。
まぁ、こんな感じで暢気すぎる俺ですが、これからもヨロシクしてくれる人が…いるといいな!!