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砂糖づけランデブー  作者: 麦子
13/19

13.片想いは食べられない

あんなこと、言わなきゃよかった。白雪のあんな顔、見たくなかったのに。今にも泣き出しそうだったのに、なんであんなくだらないガキみたいなヤキモチ押し付けてしまったんだろう。



なーんて。



そんなシケたこと悶々と考えているわけがない。くだらない。どこの優男だ。まあでも、多少は落ち込んでいたりもするわけだがそれよりも別の感情が俺を支配していた。



気に入らない。あいつのあの態度。名前を聞いただけで、目元潤ませやがって。俺以外の男のことで、泣きそうになっているしおらしい面なんて見たくもなかった。

だから、言いたくなかったんだ。同窓会のこと、鈴村が来ること。知らないままなら、それで都合が良かったのだ。俺が。


鈴村というのは俺らの元担任でもあり、白雪が高校時代ずっと好きだった男だ。あの子だって、昔から恋に対してあんなに淡白だったわけじゃないのだ。


白雪と鈴村の間に何があったのかは詳しくは知らない。でも、多分あいつが恋愛に一切興味を向けなくなった原因は、鈴村にある。一種の、トラウマみたいになっているんだろう。現に、鈴村の名前を聞いただけであんなにも動揺していた。むかつく。俺といて動揺したことなんてほとんどないくせに。ましてや、泣き顔なんて。なんだよ、結局ヤキモチかよ。くだらないな、俺。

でも、そろそろ逃げてばっかじゃだめじゃねーの。白雪も、俺も。

高校生のときのまんまじゃ、困るんだよ白雪。いつまでも、関係ないって知らないフリしていられると思うなよ。



「さーて、俺も頑張りますか」



ひとり呟いた決意は、吐き出した白い空気に混じって空へと浮かんでいった。





「白雪、いないんすか?」



息巻いて向かったまごころ屋に、いつもの営業スマイルを貼り付けた白雪はいなかった。いたのは、バイトの浜と白雪のおかあさんである都さんだった。浜がなにやら嬉しそうに近寄ってきたが、もちろん無視して困り顔している都さんに話しかける。



「どっか出掛けてる?」

「そうなんだけど…随分前に行ったっきり帰ってこないからちょっと心配で…。あの子、この間から調子悪そうにフラフラしてたから」

「杏さん、最近様子おかしかったですもんね。なんつーか、こう、心ここにあらずみたいな感じでしたし」

「ふーん」



二人の話を聞きながら、小さく舌打ちをする。そんなにダメージでかかったのかよ、年頃の女子かよ。いや、うん、確かにあいつは一応年頃の女の子だけれども。

都さんの話では、朝からクッキーを大量生産したり階段からずり落ちそうになったりパジャマ姿のまま店に出ようとしたり、とにかく不審な行動をしていたから心配とのことだった。今は、ケータイを買いに行ったまま帰ってこないらしい。



「やっぱり俺、探してきます。杏さんああ見えて意外とドジなところもあるし、」

「いい。俺が探しにいく。浜、バイト中だろ。しっかり働きなよ、サボろうとすんな」

「野上さん…。…愛っすね」

「黙れ浜。髪の毛毟りとるぞ」



都さんのオロオロした様子が伝染したのか、慌てて店を出ようとする浜の首根っこをつかんで奥に放り投げた。暑苦しく感動している浜は放置して、心配している都さんに行ってきますと頭を下げた。





商店街から大通りに出て、しばらく足早に歩いていると丸っこい背中がぼんやりとしてケータイショップの前で立ち止まっているのが見えた。あやうく通りすぎそうだった足を止める。やっと見つけた。



「おーい、そこの雪だるまちゃーん」



後ろから近づいて、その後頭部に軽めにチョップをする。白雪の片手には膨らんだエコバッグ。食材は買い込んであるくせに、肝心のケータイを買った様子はなかった。ワンテンポ遅れて振り向いた白雪には、いつもの膨れっ面はなかった。



「?、あ。野上、偶然だね。どうしたの」

「迷子の女の子を探しにきたの。都さんがすっげー心配してた、あとついでに浜も」

「そうなんだ。ごめん、ありがとう」

「うん」

「……」

「……」



なんとなく沈黙が続く。明らかに元気がない。…つまんねえ。おもしろくない。



「白雪、ケータイは?買ったの?」

「ううん、まだ。なんかね、今日の夕飯買いに行くほうが先かなって思って」

「今日何作んの?」

「餃子。いっぱい作れるもののほうがいいかなあって」



クッキーの次は餃子の大量生産か。こいつ、何か悩み事あると食べ物を大量生産させるクセでもあるのだろうか。白雪が「無心で作れるしね」と呟いたが、聞こえないふりをして白雪の手をとった。ついでにエコバッグも。いつもなら、「放せ、ばか」という痛くもかゆくもない暴言くらい飛んでくるのだが今日の白雪は何も言わずに繋がれた手に疑問を抱く素振りも見せない。ただ何も言わずにじっと俺を見上げるだけだった。



「俺、選んでやろっかケータイ。それか、機種どれがいいのか分かんないんだったら、俺のと同じにする?」

「あー、うん。そうしよっかなあ」



曖昧な笑顔で返される。だから、そんな顔すんなよばか。

ヤキモチばっかりだって?どーせガキだよ、悪かったな。




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