Leaf1 出会いのかけら
大切な人と一緒だと幸せなのですか?
お線香の香りと時折吹いてくるヒヤッとする風で私は夢から覚めた。こんな時に何で未来の事なんかが見えたのだろう。今が一番大変な時なのに・・・しかも覚えているのは、知らない男の子と晴れ渡った空と・・・
「大丈夫?気分悪いの?波香ちゃん」
隣に座っていた伯母さんが声を掛けてくれた。
「あっ、いえ・・大丈夫です。すこし貧血っぽいだけなんで」
「そうなの・・・もう少しで終わるだろうから、もうちょっと我慢してね」
そうニコッと笑いながら伯母さんは言った。
この前の日曜日、私の両親は死んだ。
「波香も大きくなったし、一人で留守番だって出来るよね?」
母が突然そんな事を言うもんだから何事かと思った。だが
「明日はお母さんとお父さんの結婚記念日なの。だから二人で旅行したいな〜なんて思ったんだけど・・・良い?」
とこっちの心配をよそに母はこんな事を言ってのけた。たとえダメといっても行くんだろうから、仕方なくOKした。
「まったく・・・いつまで新婚気分でいるつもり?」
呆れてしまったので一応聞いてみた。すると母はフフッと小さく笑ってから
「死ぬまでよ。だって結婚って大切な人とずっと一緒にいられるってことよ?コレの以上の幸せなんて無いわ。お母さんはお父さんと一緒にいられてホント幸せだわ〜」
そして鼻唄交じりに荷造りを始めた。だがその夜の夢でうっかり見てしまったのだ。母の未来を・・・急に目の前でバスが崖から落ちていく映像がなんて、非現実過ぎて信じられないから、てっきり映画か何かの1シーンが夢に出てきたのだと思った。でもそれが本当に未来のことだったなんて・・・何せ二人が帰りに乗ったバスが、本当に転落事故を起こしたのだから。二人とも打ち所・・・というより座った所が悪かったのか、すぐに息を引き取ったらしい。
まさか一瞬にして二人の大切な人を亡くすなんて・・・一応知っていたといえばそうだが、自分だって信じられなかったのだから結局、意味はない。自分がこんな目に遭うなんて思ってもみなかったし。
願ったって二人が帰ってくる訳じゃないんだからとは思うが、出来ることなら、もう一度だけ会って・・・幸せな人生だったかを聞きたい。でも本当に大切な人と一緒だったからきっと幸せだったんだろうなぁ。
時間がいつの間にか経っていて、今はもう葬式の後の昼食タイムになっていた。私は部屋の隅っこでボーっとしていたが、やはり居心地が悪く、トイレで時間を潰して帰る頃になったらまた出てこようと思い、しばらくトイレに閉じ篭っていた。すると急に眠気が襲ってきてしばらくの間眠ってしまった。ざわざわと人の話し声が聞こえてきて、私は慌てて起きた。
「・・・波香ちゃん・・・・」
と私の名前が聞こえてきたので、もしかしたら中々トイレから出てこない私を心配しているのかもと思い、出て行こうとしたが
「誰が引き取るの?」
全くの逆だった。私の事なんてちっとも心配していなかった。しているのは自分達の心配。
「私のところは無理よ。育ち盛りの息子が3人もいるんだもの。あなたは?」
「すみません、お姉さん。うちだってやっと上の子が小学校に上がったんですよ〜」
その後もみんなで私の事を押し付け合っている。でも最後にさっき声をかけてくれた伯母さんが始めて口を挟んだ。
「もう。みんなしょうがないわねぇ」
やっぱりこの人は良い人だと思った。さすが母のお姉さんとまで思った。が、
「だったら何処かに預かってもらいましょうか〜」
むやみに希望を持つと逆だった時のショックは・・・相当なものとなる。
「そうですよね〜アハハハハハハハハ」
悔しくて涙も出て来ないし、耳を劈くような酷い笑い声に気分も悪くなってきた。どうして不幸がこんなに一編にやってくるのだろう・・・
この時、私はもう二度と幸せになってはいけないんだと、確信した。
オバサン達が全員居なくなってから私はゆっくりとトイレを出た。部屋に戻ってアノ人達の顔を見るのは嫌だったけど、帰らねばもっと迷惑がかかると思いトボトボと戻っていた。すると部屋の中から大声が聞こえてきた。何事かと思い、走って行ってドアを開けると、
「・・・壁?」
と見紛うぐらい目の前に真っ黒いコートを着た外国人張りの背の高さの人が佇んでいた。
「ん?・・あ〜!!!!!」
最初は背が高すぎたのか私の事に気付かなかったみたいけど、見つけた途端に人の事を指さして大声で叫んだ。
「君が波香君か!!いやぁ〜ホントに水希君にそっくりだ!!」
「水希って・・お母さんのことですか?」
「あぁそうさ!結婚式で見て以来だけど、そのままだな〜。きっと君も美人になるぞ!」
見たことも無い男の人だし、髭がぼさぼさで年も分からないけど、ニカッて笑った時の顔がすごく・・・懐かしい感じがした。そして
「よし!やっぱりこの子は俺が引き取る!」
と突拍子も無いことを言い出した。
「は?」
思わずこの場にいた全員がそう言った。
「止めとけ!お前なんかに子供が育てられるはずが無い!」
「そうよ!途中で捨てたりなんて出来ないのよ!」
そんなに信用されてないんだこの人・・・と思いうっかりジトッとした目で見てしまった。
「〜〜分かってるよ!そのぐらい。でも・・つーか、だからこそ俺が引き取るって決めたんだ!!」
今、この人も何だか雰囲気が変わったけど、場の雰囲気も変わった気がする。・・・すごい!この人の一言でこんなにも変わってしまうなんて・・・こんな人だとは思わなかった。
「ってことで」
そしてみんなが呆気にとられているのを楽しんでいるかの様に、ニコッと私に向かって微笑んだ。
「この子は俺が貰ってくから。じゃあ皆さん、さよーなら〜!!」
彼がそう言い終わるのと同時に私の体がフワッと浮いた。
「へ〜〜〜〜!?」
私を小脇に抱え去り行く彼を、店の人も親戚一同も全員呆然と見送っていた。
「これからよろしくね、波香ちゃん?」
またアノ、人を小馬鹿にした様な笑顔で言う。
「それよりもいい加減私のこと離してくれません?」
あ〜もうちょっとハチャメチャにするつもりだったんですけど・・・あまりなってませんね。でもこの小説のギャグ要因が出て来てくれたので、これからはもっと明るくなるかと・・・何はともあれ楽しんで読んで頂ければ幸いです。