プロローグ 雨と笑えば
四葉のクローバーは本当に幸せを運んでくれますか?
雨が窓を叩く音が聞こえる。ジメジメするしべとべとするし、だからこの時期の雨は嫌いだ。だが彼はわざわざこの家に来た。どんな理由かは・・・少し見当がつく。
「俺、もうすぐ・・・死ぬんだろ?」
やっぱり・・・
「・・・」
「いや、俺だってこんな話したくねぇよ。でも・・お前には・・」
雨足が強くなり、窓を叩く音が大きくなる。
「えぇ。確かにあなたはもうすぐ死ぬわ。私の未来予知能力に、狂いは無いから・・・」
ここまでこの能力に嫌悪感を覚えたのは、今が初めてだった。それにこんなことを歯に衣着せぬ言う私を、彼らは今までどう思って来たのだろう?と思うとホントに自分が嫌になる。
「・・・ごめんな。あんなこと言わせて。本当は言わないって約束してたのにな。破らせちまったな。ホント・・・ごめん」
そう言って温かく私のことを抱きしめる彼がとても愛しい。謝りたいのも、感謝したいのも私だって同じなのに・・・先に言われてしまった。だから私も抱きしめ返した。彼がここにいるということを、この事実を、しっかりと心に焼き付けたいから。
「ご・・・ごめんなさい・・・」
雨の音がどんどん弱くなる。早く晴れてまた暑い日差しが降り注げばいいのに。
「何泣いてんだよ?そんな哀しむことじゃねぇって」
・・・私が泣いてる?そんな・・泣きたいのは彼の方だろうに。勝手に未来を見て、それを告げて・・・終わり。何て私は無力で、身勝手なのだろう・・・こんな能力さえ無ければ、誰も辛い思いはしなかったのに・・・
「じゃあ俺は帰るからな。いつまでもメソメソしてんじゃねぇぞ」
無理して笑っているのがありありと分かる。笑顔がとても綺麗な彼を変えてしまったのはきっと私。
「あっ、そうだ!アイツには絶対言うなよ!心配しすぎて向こうが倒れかねないからな」
と念を押されてしまった。私と彼とがした初めての約束。もう7年も一緒にいるのに、初めての約束がこんなことだなんて虚しすぎるけど・・・少し嬉しい。
「分かったわ。じゃあ指切りね」
ハイっと小指を差し出す。彼のポカーンとした顔がとても面白い。珍しく私が子供っぽいことを言ったからだろう。
「・・・そうだな」
そして指切りをして帰ろうとすると、空には虹が―
神様がこの虹を架けてくれたのかもよと言うと、彼は片方の口角だけを上げてニヤッと笑った。
「そんな小粋なことを神様がするもんかな?きっと・・・四葉のクローバーが、少しの幸せ気分を運んでくれたんじゃん?」
そう言って私のピアスに軽くキスをし、赤くなっている私を他所に笑いながら帰って行った。
わざと水溜りに足を入れたりして、子供っぽい行動をとる彼が7年前のあの日と重なって見える。
そう私が私になれたあの日に―
初投稿作品です。いろいろおかしな部分もあるかもしれませんが、あまり気にしないで下さい。これからはもっと明るくするつもりなので楽しんで頂ければ幸いです。