空色のノート ー優しい言葉ー
むか~し書いた小説。
読み返してみたら、説明不足な上におちがないというか・・・でも、手直しするのもなんだかなぁってかんじだったんで、そのまま載せました。
よかったら読んで頂けたら嬉しいです
私は20年間の人生の中でいろいろなことを考えてきた。
それはとてもくだらなかったり、ありふれていたり、とるにたらないものだったりするけれど、今ではその一つ一つが大切な宝物だと言える。
心の底から・・・・・言える。
何も描かれていないキャンパスのように真っ白な扉が、ゆっくりと開いた。
気を遣っているのだろうか?
それまでの過程・・・・スリッパで廊下を走るパタパタという音や、看護婦さんの静かな叱責、そして謝る彼の声によってその試みは失敗しているというのに。
そのとぼけた気遣いがおかしくて、そして嬉しくて、私は今まで横たわっていたベッドから体を起こした。
それと同時に、最近私が気に入っているケーキ屋の箱をぶら下げた春太が入ってくる。
つんつんした髪の下についている、日本男児!!といった感じの眉をちょっとあげて、彼は右手も持ち上げた。
「よっ!元気にしてたか?」
「とりあえず元気だから、あなたの持ってるケーキをあなたの分まで私にください」
「・・・・なんか日本語、変じゃない?」
やれやれと呆れたため息をつきながら、病室の標準装備である堅い丸イスに腰を下ろした。
無言のままお茶の用意をする。
春太が手を動かすたびに、お茶の香ばしい芳香が部屋中に広がっていく。
その薫りの海に漂いながら、私はなめらかに動く彼の手を見つめ続けていた。
私は彼の手が好きだ。
彼がその手から生み出す全ての存在・・・お茶やご飯、音楽や優しさをとても愛おしく思う。
だから私は、彼にいろいろな物をねだった。
それはごはんだったり、歌だったり、性に関することだったり。
お金がかからない物。
彼自身が生み出す物。
それに心を触れあわせることが幸せだったんだ。
だから、私の最後の一年は幸せで、そして、幸せすぎたから罰があたった。
無言の時が過ぎる。
ケーキの甘さとお茶の芳香、そしてカチャカチャという陶器をこすり合わせる音だけが部屋の中を満たす。
その空間の中では、全てが平等だった。
私は不幸な少女ではなかったし、この、退屈に片足どころか両足つっこんでるような生活もとても愛しく思えた。
幸せだったんだ。
そんな普通で、平凡で、ありふれている毎日が。
「そういえばさ・・・」
「え?」
「高橋が結婚したんだって」
「うそ!?あの真樹ちゃんが?・・・・・・へ~、変われば変わるもんだね~」
「うん。あの頃は男なんて!!ってかんじだったくせに、この前会ったときなんか、のろけ話しかしないでやんの」
「あはは。でも、私たちの式の時にはさんざん自慢したんだから、それくらいは我慢してあげないと」
「そりゃあ、お前はいいけどさ、聞かされるこっちの身にもなってくれよ。でも、まあ、あれのせいでしたくなっちゃったのかもしれんなぁ、結婚」
半年前のことを思い出す。
ちょっと古びた教会で、集まってくれた何人かの人たちにライスシャワーの洗礼を受けて・・・・なんか節分と間違っちゃってる人たちもいたけれど・・・・それでも楽しかった記憶。
昨日のことのように思い出せる、薄いヴェールの向こう側で輝いている記憶。
涙が、あふれる。
私はその涙を彼にだけは絶対みせたくなくて、咳き込むふりをしてうつむいた。
苦笑を浮かべながら、それでも心配そうに声をかけてくる彼の手が、背中に回される。
優しくなでてくれる彼の手が、不意に止まった。
頭の上に置かれる、大きな手。
誰かを慰めようとするときの、彼の癖。
その小さな癖がいつもと変わらなくて、その大きな手から気持ちが流れてくる気がして。
私はまた泣いてしまった。
彼の手はささやき続ける。
優しい言葉を。