1 ゴシェナイト家の落ちこぼれ
以前こちらで掲載していた作品の書き直し作になります。
よろしくお願いいたします。
オパールは、代々製薬と新薬の開発を家業とする薬師一族であるゴシェナイト家の次女だ。
姉のクリスタルと一緒に幼少時から製薬を学び、薬学の知識についてはこの国一とされる父に匹敵するオパールだが、陰では「一族の落ちこぼれ」と呼ばれている。それは、オパールが膨大な知識をもちながら全く薬を作ることができないせいだった。
「オパールが薬を作れなくたって問題ない。うちは偶々薬師になる人が続いただけで、必ず薬師にならなきゃいけないわけじゃないんだからな」
「そうよ。それにね、製薬の理論を考えたり薬学の知識を教えたりすることだって、薬学に十分に貢献していることになるわ」
父もクリスタルも、絶対にオパールを否定しない。
「急に作れるようになるかもしれないだろう? 毎日じゃなくていいから、製薬も続けなさい」
オパールは、幼少時から薬師という仕事にあこがれてきた。「いつかはお父さんみたいな薬師になってみんなを助けるの!」と宣言したほどだ。
だから、オパールもあきらめてはいなかった。父やクリスタルに支えられながら、何がいけないのか考えながら作業をする。手順も材料の量も寸分の狂いもなく薬を作っても、クリスタルにはできて、オパールにはできない。
「……ごめんなさい」
「いや、それにしてもどうしてこうなるんだろうな」
今日もオパールは薬を作ることができなかった。
できないというのは、正確に言うと「薬にならない」という意味だ。同じ材料、同じ手段、同じ手順で同時に作ったクリスタルの薬を「鑑定」すれば確かに素材そのものの薬効だけでなく、素材と素材が結びついて生まれた薬効が確認できる。だが、オパールが作ったものを「鑑定」すると、「効果なし」と表示される。
つまり、素材が持つ薬効さえ消えてしまうのだ。
薬師たちは、オパールの現象を大いに問題視した。完成した薬も、オパールが触れると薬効が消えてしまうことがわかると、オパールは「薬を消滅させる恐ろしい存在」として、更には「あの薬師のゴシェナイト家で薬師になれない落ちこぼれの存在」とされ、他家の薬師がオパールとあいさつの握手さえ拒否するようになるほどの「悪名」で有名になってしまった。
これまで王都で「ゴシェナイト家の薬」と言えば王侯貴族さえ買い求めるほどの薬だったが、オパールの噂が広がると同時に客足が遠のき始めた。
「ごめんなさい、私のせいで売り上げまで落ちてしまって」
父はオパールを抱きしめた。まだ14歳の娘に対して、王都の人々は残酷だった。
「なあ、クリスタル、オパール。みんなで王都から出ないか? スヴァルトル辺境伯閣下が、私たちを受け入れてくださるそうだ」
父は言った。
スヴァルトル辺境伯は、ゴシェナイト家に大きな借りがあると考えている。それは、クリスタルとオパールの母の死が、スヴァルトル辺境伯の依頼中の出来事だったからだ。
オパールが3歳になる前に亡くなった母は、やはり薬師だった。スヴァルトル辺境伯領で辺境伯夫人の病気治療のために呼ばれた母は、治療のために必要な「竜の涙」と呼ばれる薬草が必要だと判断した。
「竜の涙」はあらゆる病に聞く「万病薬」としてかつて乱獲され、この国では「ジェットの森」の奥地だけで細々とその命をつないでいる貴重な薬草。母は薬草を見分ける才能に優れており、「ジェットの森」で「竜の涙」を探し出せる貴重な戦力として「ジェットの森」に入り、何とか「竜の涙」を探し出すことに成功した。
だが、護衛についたスヴァルトル辺境伯家の騎士や薬師たちと辺境伯家に帰る途中で、母は猛毒を持つ毒蛇に噛まれてしまった。深い「ジェットの森」の中でのこと、血清など用意できるはずもなく、騎士たちに抱えられて森を出た時には、既に母の息がなかった。
スヴァルトル辺境伯はクリスタルとオパールの父に詫びた。そして、困ったことがあったら必ず助けると約束した。
現在のゴシェナイト家がオパールのことで苦境にあると知ったスヴァルトル辺境伯は、すぐにゴシェナイト家に声をかけた。そしてこう言ったのだ……「こちらで薬師をしないか、薬師が足りずに困っているのだ」と。
「これはチャンスかもしれないと思うんだ。お母さんのお墓も、スヴァルトル辺境伯領にある。自然豊かなところで、これからどうやって生きていくか、ゆっくり考えてみないか?」
オパールは父の話を聞き、静かにうなずいた。クリスタルも賛成した。
「珍しい薬草もあるのでしょう? 見てみたいし、きっと辺境ならオパールものびやかに暮らせるはずよ」
「ええ、私、新しいところで、新しいことに挑戦してみたい」
「よし、それなら話は決まりだ。すぐにでも引っ越そう」
三日後、ゴシェナイト家は王都の店を閉めてスヴァルトル辺境伯領へと旅立った。製薬道具や薬草などの素材は積み込んだが、それ以外のもの……王都の家も店も全て売り払って現金に換えた。それが父の覚悟の表れだった。
オパールは馬車から外を眺めた。もう王都に戻ることはないだろう。遊びなれた場所から離れるのは少しだけ寂しかったが、それ以上に新しい土地での生活への期待の方が大きく膨らんでいた。
王都の門をくぐると、一気に視界が開けた。
「わああ!」
オパールの声が久しぶりに弾んだ。これからはきっと、楽しいこと、面白いことがたくさんあるに違いない。
広い空を見上げながら、オパールは決めた。
自分にできることを探そう、そして、それを究めて人の役に立てることを証明しよう、と。
読んでくださってありがとうございました。
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