第9話《施療》
教会の司祭は村人を集め、広場の真ん中で祈りを始めた。
床には熱にうなされる男が寝かされている。
司祭は両手をかざし、聖典を唱えた。
「主よ、この者に癒しを……」
だが何も起きなかった。
男は苦しげに咳き込み、村人達は顔を見合わせた。
「だ、だめだ……」
「やはりこの病は……」
司祭は冷や汗をかきながら、必死に祈り続けた。
けれど病人の苦しみは和らがない。
その時。
誰かが小さくつぶやいた。
「……神の子に……頼むしかない」
一斉に視線がナユへと向く。
父と母は慌てて首を振った。
「この子はただの娘です!どうか……」
「頼むのはやめてください!」
しかし村人は引き下がらなかった。
布団に寝かされていたナユは、ため息をついた。
「……はいはい、結局こうなるのね。顧客の『この機能つけて』並みに無茶ぶりだわ」
ナユは心の中で願った。
――目の前の病人が元気になりますように。
次の瞬間、ナユから光が発せられ、光は淡い光となり男を包んだ。
荒い息が落ち着き、赤かった顔色が戻っていく。
やがて男は上体を起こし、驚いたように両手を見つめた。
「……楽に……なった……!」
村人達から歓声が上がる。
「神の子だ!本物だ!」
「奇跡だ、奇跡を見た!」
司祭はしばらく呆然としていたが、やがて跪き、ナユに頭を垂れた。
「……これは……神の御業。間違いなく“神の子”だ……!」
ナユは小さな胸の中で、しっかりと日報をつける。
「今日の記録:病人を施療。やはり病気は願いで治せる……日報完了」
こうして、教会は確信を持った。
――この村に現れた赤ん坊は、神に選ばれし存在である、と。




