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第89話《再起》

 朝の霧が晴れていく。

 森の中には、まだ焦げた匂いが残っていた。

 倒木の間に淡い光が差し込み、金色の粒が静かに舞う。


 ナユはゆっくりと息を吐いた。

 身体は重いが、意識ははっきりしている。

 周囲には倒れた仲間達の姿――それでも、全員の呼吸がある。


「……みんな、まだ生きてるのです……」


 その声に、リカリーネが微かに反応した。

 額に包帯を巻きながら、必死に上体を起こす。


「当たり前でしょ」


 バルドランが微笑を浮かべ、杖の先で焦げた地面を軽く叩く。


「あの腐敗の霧の中心で生き延びたなど……常識ではあり得ん。まるで、災厄そのものを押し返したかのようじゃ」


「……でも、あれ、なんだったのです?」


 ナユは拳を握った。

 脳裏に浮かぶのは、サバリネのあの瞳――狂気と冷気を併せ持つ紅。


「闇の魔族でもあの規模の腐敗霧を展開出来る者など、滅多におらん。恐らくは、魔王に連なる上位個体……その“配下”であろう」


「……つまり、魔王はまだ……生きてるのですか?」


 ナユの言葉に、空気が止まった。

 風が木々の間を抜け、焦げた枝がかすかに音を立てる。


「分からん。だが、あの力が動いておる以上、何かが蠢いておるのは確かじゃ」


 セバスチャンが近くの地面を調べていた。

 焦げ跡の中心に、黒い灰のような粒が残っている。


「……ですが、これは尋常ではありません」


「……ですね」


 ナユは地を見つめ、手のひらを握りしめる。

 そこにはまだ、戦いの時の感覚――

 あの光と、そして闇の熱が微かに残っていた。


『ナユ、体内魔力波形に異常残留を確認。出力は安定していますが、未知の属性反応あり』


(……ミラ、それって、危ないのです?)


『現時点では安定状態。けれど、“何か”があなたの魔力に混じっているのは確かです』


 ナユは静かに頷いた。


(……怖いけど、今はみんなが無事なら、それでいいのです)


 リカリーネが微笑む。


「ふふ……本当に、バカみたいに強いわね、ナユ」


「これでもいつも必死なのです、でも……もっと強くならないと」


 ナユは立ち上がり、ゆっくりと空を仰いだ。

 朝の光が、彼女の髪に反射して淡く輝く。


「王都に戻るのです。報告と……それに、確認もしないと」


「確認?」と、バルドラン。


「勇者と、魔王の行方を」


 その言葉に、誰も何も返せなかった。

 風が、静かに森を抜けていく。


「今日の記録:腐敗霧のサバリネとの戦い、なんとか生き延びたのです。みんな傷だらけだったけど、誰も欠けずに戻れてよかった。あの時、わたしの中で“何か”が動いた気がします。ミラが言ってた未知の魔力……少し怖いけど、きっと意味があるのです。――強くなりたい理由、またひとつ見つけたのです。日報完了」

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