表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/142

第87話《光刃》

 光と闇がぶつかり合い、森が震えていた。

 腐敗霧の中で、ナユの結界が軋む音を立てる。


『……限界です、ナユ。防御層、残り十パーセント』


「まだ……まだいけるのです!!」


 声が震えていた。

 けれどその瞳は、まっすぐに闇を見据えていた。


 サバリネがゆっくりと歩み寄る。

 黒衣の裾から滴る霧が、地面を溶かしながら広がっていく。


「ふふ……見事なものだ。人間がここまで光を操るとは」


「黙るのです……あなたのせいで、みんなが傷ついてるのです!」


 ナユの身体に走る痛みは、すでに限界を超えていた。

 十二重の《ブースト》が筋肉を焼き、骨を軋ませる。

 けれど、止まらなかった。


「……《レイ・エッジ》ッ!!」


 閃光が奔る。

 斬撃が霧を裂き、サバリネの腕をかすめた。

 腐敗した血が蒸気を上げて消える。


 サバリネの唇が吊り上がる。


「悪くはない。だが――“そこまで”だ」


 その瞬間、濃霧が爆ぜた。

 視界が奪われ、耳が軋む。

 ナユの結界が破裂音を立て、仲間達の悲鳴が響く。


「くっ……!」


 魔力が底を尽きかけていた。

 膝が折れ、光が消える。

 その隙を逃さず、サバリネが手を翳す。


「終わりだ――光の子」


 腐敗の奔流がナユを包もうとした。


 その時。

 ナユの左手が、反射的に動いた。


《アイテムボックス――アクセス!!》


 空間が裂け、光の瓶が飛び出す。

 中に宿る液体が、ナユの掌に触れた瞬間――全身が金色に輝いた。


『……《エリクサー》、使用完了。状態:完全回復』


 ミラの声が淡々と響く。


 サバリネの笑みが止まった。


「な……何をした……!?」


「わたしは!!こんな所で立ち止まる訳にはいかないのです!!!」


 ナユの魔力が再び膨張する。

 光が収束し、空気が震えた。


『解析不能……新たな構造式検出。進化発動。名称:《レイ・ブレード》』


 ミラの報告と同時に、ナユの手に光の剣が顕現する。

 それは刃の形を取り、輝きを宿した“意志ある光”。


「これが……わたしの――光なのです!!」


 斬撃が走る。

 轟音とともに、闇が裂け、腐敗霧が吹き飛ぶ。

 サバリネの体が斜めに裂け、地面に叩きつけられた。


「ぐ、あああああっ!!」


 その叫びが森を震わせる。

 ナユは肩で息をしながら、剣を握りしめた。


「これで……終わり、なのです!」


 サバリネの口元が歪んだ。

 霧が再び体を包み込み、傷口を覆う。


「ククク……面白い……実に面白い……」


 その赤い瞳がナユを射抜いた。


「覚えておけ、小娘。お前の家族も、あの執事も――皆、腐らせてやる、惨たらしく縊り殺してやるからな!!」


 ――一瞬、世界が凍った。


 ナユの脳裏に、父と母の笑顔。

 ミナの穏やかな声。

 そして、セバスチャンの静かな背中。


 それが、霧に飲まれる光景に変わった。


「……っ!」


 心臓の奥から、何かが弾ける。

 光の瞳が、赤黒く滲んだ。

 空気が震え、地が軋む。


『ナユ、危険。出力異常――!』


 ミラの声が警告を発する。

 だがもう遅い。


《条件成立、必須条件①魔力ランクSS、②属性適正闇潜在、―――魔王覇気を取得しました、殺意の対象が存在するので自動発動します―――》


 ナユの身体から、純粋な“殺気”が吹き出した。

 それは光ではなく、闇の色を帯びた圧。

 サバリネが息を詰まらせる。


「な、なんだ、この気配は……魔王陛下の……いや、それ以上……!」


「二度と、わたしの家族に近付くな……!!」


 その声は、まるで別人のように低く響いた。


 刹那、闇に怯えたサバリネが霧と共に消える。


 残されたのは、白く焦げた地面と、倒れ込むナユの小さな身体。


『……危険は去りました。……ナユ、あなたは――』


 ミラの声がわずかに揺れた。


 月明かりの下、ナユの頬を伝う涙が、光に溶けて、意識が闇の中に遠退いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ