第8話《教会》
ナユが村を救った噂は、やがて小さな教会にも届いた。
ある日、年配の司祭が数人の従者を連れて村を訪れる。
「この村に“神の子”がいると聞いたのだが……」
村人達は一斉にうなずき、家の中へ案内した。
そこには、布団でごろごろしているナユがいた。
「……ただの赤ん坊ではないか」
司祭は眉をひそめた。
だが村人達は口々に叫ぶ。
「奇跡を見たのです!畑に食糧が現れた!」
「病気も治った!盗賊も退けられた!」
両親は困った顔をして、ナユを抱きしめる。
「この子は……ただの私達の娘です」
「奇跡なんて……」
けれど村人も司祭も、もはや耳を貸さなかった。
ナユは布団の中でため息をついた。
「……いやいやいや、俺はただの社畜だってば。奇跡?ただの業務改善報告ですよ」
司祭はナユを見下ろし、静かに祈りを捧げる。
「もし本当に神の子であるならば……次の奇跡を見せていただこう」
その言葉に、村人達の視線がさらに熱を帯びる。
父と母は心配そうにナユを見つめた。
ナユは心の中で小さくメモをつけた。
「今日の記録:教会が来訪。奇跡を証明しろと言われる。よし……日報完了」
――こうして、ナユの存在は村だけでなく、教会という外の世界へと広がり始めたのだった。




