第7話《盗賊》
村に光と食糧が戻り、病も退けられてから数日。
人々の笑顔は少しずつ戻っていた。
だが、その噂はあっという間に広がってしまった。
「神の子が現れ、奇跡で村を救った」という話が、山奥に潜む盗賊団の耳にまで届いたのだ。
ある夜。
村の見張りが叫んだ。
「盗賊だ!盗賊が攻めてくるぞ!」
火のついた松明が闇を揺らし、粗末な鎧をまとった男達が押し寄せてくる。
村人達は青ざめ、震える声で赤ん坊のナユを見た。
「神の子よ……どうか、どうかお助けを!」
布団の中でナユは、心の中で深くため息をついた。
「……また無茶ぶりか。まるで顧客の“急な仕様変更”と同じだな。戦闘スキルゼロの赤ん坊に、盗賊団撃退を頼むってどうなのよ」
盗賊団の頭が、剣を掲げて怒鳴る。
「食い物と財を差し出せ!抵抗すれば皆殺しだ!」
村人は震え上がり、父と母はナユを庇うように抱きしめた。
ナユは目を閉じ、願った。
――争いをなくし、盗賊達が別の生き方を選べますように。
次の瞬間。
ナユから光が溢れる。
頭の手にあった剣が光り輝き、地図に変わった。
古びた羊皮紙に「山奥の金鉱脈」の在りかが刻まれていたのだ。
「な、なんだこれは……!?」
盗賊達は目を見開き、互いに顔を見合わせる。
「お、俺達……もう村を襲う必要はないんじゃないか?」
「金鉱があれば……食い扶持も得られる……!」
頭はしばらく迷ったが、やがて地図を握りしめて笑った。
「……いいだろう。今日の所は引いてやる!村の食い物も命も、もう要らん!」
盗賊達は松明を消し、山へと去っていった。
村には再び静けさが戻る。
村人は泣きながら赤ん坊を仰ぎ見た。
「神の子だ……やはり神の子だ!」
ナユは布団の中で、心のメモをつけた。
「今日の記録:盗賊団を撤退させた。争いも願いで避けられる。よし……日報完了」
奇跡はまた一つ積み重なった。
だが同時に、村の外へ広がる噂もまた強まり、次なる試練を呼び寄せようとしていた。




