第48話《静修》
夜更け。
月光が薄く差し込む寝室で、ナユは小さな手を動かしていた。
昼間の訓練で光の粒を生み出せたことを思い出しながら、胸の奥に感じる“流れ”に意識を向ける。
――魔力って、使えば使うほど滑らかになる。
なら、たくさん使えば……増えるんじゃないか?
社畜時代の“積み上げ脳”が動き出す。
体を鍛えれば筋肉が増える。なら、魔力も使えば増えるはず――単純だが、彼女なりの理屈だった。
小さな指先に力を込める。
ほのかな光が生まれては消え、また灯る。
一度、二度、三度。
繰り返すたびに、胸の奥の“もう一つの鼓動”が強まっていく。
空気が微かに震えた。
ナユの周囲を、ほの白い光の粒がふわりと舞う。
息が上がり、額に汗が滲む。
それでもナユは続けた。
――使えば増える。増やせば、きっと“次”が見える。
やがて力尽き、ナユは小さなあくびをして目を閉じた。
その手のひらには、まだ微弱な光の名残があった。
◆
廊下の陰で、セバスチャンがそっと足を止める。
屋敷を満たす微かな魔力の揺らぎを感じ取り、唇に笑みを浮かべた。
「……魔力の発動を連日繰り返しておられるとは。まるで呼吸のように自然に……やはり、あのお方は特別ですな」
老執事は静かに背を伸ばし、夜空を見上げる。
窓の外、月が静かに輝いていた。
「幼き者ほど、伸びる。あの方は、それを本能で理解しておられる……」
風が緞帳を揺らす。
月の光が、眠るナユの頬を柔らかく照らしていた。
「今日の記録:寝る前に魔法を何度も使ってみた。使えば使うほど流れがよくなる。たぶん魔力量、ちょっと増えた。継続は力なり。日報完了。」




