第47話《循環》
静かな朝の光が、御屋敷の練習場に差し込んでいた。
昨日の訓練の続き。
ナユはまだ短い腕を前に出し、ゆっくりと呼吸を整える。
――昨日は“出す”事が出来た。
なら、今日は“巡らせる”だ。
セバスチャンの言葉を思い出しながら、胸の奥へと意識を沈めていく。
心臓の鼓動に合わせて、微かな温かさが体を流れていった。
やがて――。
ナユの体から、淡い光が滲み出した。
それは昨日、意識して生み出した“光の珠”とは違う。
今の光は、制御も命令もなく、体の内側から自然に溢れ出ている。
「……これは……」
セバスチャンの眉がわずかに上がった。
魔力循環の結果として生じる自然発光――それは、通常なら十年単位の修行でようやく辿り着く領域。
それを、まだ一歳にも満たぬ子が成している。
流れは乱れず、暴走もない。
呼吸のたびに、淡い光が脈打ち、空気が揺らぐ。
まるで、生まれた時から魔力が肉体と調和していたかのようだった。
セバスチャンはゆっくりと膝を折り、光を見つめた。
「やはり……このお方は、“導かれし才”をお持ちだ」
その声音には、畏怖ではなく、純粋な敬意が宿っていた。
ナユの小さな胸が上下する。
魔力が体内を循環している感覚。
熱くも冷たくもなく、ただ“生きている”ような力の流れ。
――これが、魔力の流れ……。
おもしろい。
もっと動かしたい。
もっと知りたい。
やがて光は静かに消え、部屋に再び静寂が戻った。
セバスチャンは深く息を吐き、わずかに微笑む。
「見事でございます、ナユ様。……恐れながら、この調子であれば、数年で初歩の魔法に到達なさるやも知れません」
「今日の記録:魔力が体の中を回った。自分で動かしたわけじゃないのに、自然と流れて、光った。……前よりずっと軽い。これが“魔力循環”ってやつか? 日報完了。」




