第46話《道標》
朝の空気は澄み、石畳に淡い光が落ちていた。
中庭の中央で、ナユはちょこんと座り、呼吸を静かに整える。
昨日までの“感じる”訓練から、今日は“形にする”段階へ進む。
「本日は、魔力を“灯り”へと変えます。夜道を照らす道標――最も安全で、生活に役立つ初歩です」
セバスチャンは掌を上に向け、ふっと息を整えた。
次の瞬間、指先に小さな光が生まれ、丸い珠となって浮かぶ。
眩しすぎず、ゆっくりと明滅を繰り返す穏やかな光。
「要は、魔力の“流れ”を外へ開き、“輪”で包む事。流出を抑え、内側で反射させると光になります」
ナユはこくりと頷き、胸の奥から熱をすくい上げる。
昨日掴んだ流れを、掌へ。
それを薄い膜で包み、逃がさないように――。
ふわ、と淡い光が生まれた。
だが、次の瞬間にじりと歪み、消えかける。
「力まず、息を。光は押し出すのではなく、育てるものです」
ナユは肩の力を抜き、もう一度。
魔力の輪を少し広く、厚みは薄く。
光がふくらみ、ビー玉ほどの珠になる。
風が触れても揺らがない。
「……見事。安定しています」
セバスチャンの目が細められ、口元に微笑が宿る。
光珠はゆっくりと上昇し、ナユの頭上で止まった。
影が柔らかく退き、草露がきらりと光る。
「灯りは合図、救難、作業、読書……応用は尽きません。強めずとも良い。必要なだけ、必要な場所へ」
ナユは掌を少し傾け、光珠を左右へ移動させてみる。
内側の“輪”が崩れないように意識を保つ。
珠は滑るように従い、ふっと降りて掌に戻った。
「今日の所は、十分です。明日からは動かしながら保つ“両立”に入りましょう」
ナユは満足げに小さく拳を握る。
胸の奥で、ささやかな誇らしさが灯った。
――これなら、村でも夜道を怖がらなくて済む。
両親も笑ってくれる。
「今日の記録:光の珠を造形。小さいが安定。動かしながら保つ感覚も少し掴めた。道具いらずの灯り、超便利……日報完了。」




