第4話《救済》
両親を救った後も、村の状況は何も変わらなかった。
畑は枯れ、井戸の水も少なく、人々は日に日にやせ細っていく。
家の外から、誰かのうめき声が聞こえてきた。
飢えた子どもが母親の腕の中で泣いている。
大人達も、立ち上がる力さえなくしていた。
ナユは母の胸に抱かれながら、その光景をじっと見ていた。
両親は助かった。
けれど、このままでは村が滅びてしまう。
「……次は村を救わなきゃ」
小さな唇から、ふにゃふにゃとした声が漏れる。
赤ん坊の舌足らずな声でも、心の中ははっきりしていた。
ナユは心の奥に強く願った。
――みんなが食べられるように。
生きられるように。
その瞬間、空気が震えた。
またもや、ナユから光が溢れる。
「ナユ……やはり、あなたが……」
ナユの家から溢れた光は、夜明け前の村を、まばゆい光となり広がっていく。
枯れていた畑に、芽が次々と顔を出す。
井戸の水が澄み、甘い香りを放つ。
そして村の広場には、見た事のないほど大きな麦の山と、焼きたてのパンが現れた。
村人達は目を見開き、次々に立ち上がる。
「な、なんだこれは……!」
「神の恵み……?」
「あの家から光が……!!」
子ども達は歓声をあげてパンにかじりつき、大人達は涙を流した。
その光景を見ながら、ナユは布団の中で小さく頷く。
「今日の記録:村を救済。飢餓すら願いで乗り越えられる。よし……日報完了」
母は涙を流しながらナユを抱きしめ、父は祈るように頭を下げた。
村人達の視線が集まり、やがて口々にささやく。
「この子は……神の子かもしれない」
小さなナユの願いが、初めて村を救った夜だった。




