第3話《家族》
干ばつと嵐で畑は枯れ、村の食べ物は底をついていた。
家の中も寒く、鍋には水しか入っていない。
父はやせ細り、母は横たわったまま動けない。
小さなナユは、母の胸の鼓動が弱まっているのを肌で感じていた。
「……親が弱っていく……生前は両親はまだ生きていたが……目の前で亡くなられるのは、やはり辛いな……何とかならないものか……例えば、例の願いで……願いがあるじゃないか!!」
※当面は赤ちゃんなので「」内のセリフは全て赤ちゃん言葉です。
「俺は願う、この両親を助けてくれ」
その瞬間、ナユから淡い光が溢れ出し家の中に広がった。
「ナ……ユ……?」
空気が震え、どこからともなくあたたかな香りが漂う。
干からびていた鍋の水が、ゆっくりと色を変えた。
香ばしい湯気が立ちのぼり、具だくさんのスープに変わっていく。
父が目を開け、驚きの声をもらす。
「……あ、あったかい……体が……楽に……!」
母も息を取り戻し、震える手でナユを抱きしめた。
「ナユ……がやったの?……これは、夢かしら……」
光が消えた後、神様の声がナユの頭の中に響いた。
『それが《願い》だ。君が心から望むなら、どんな望みでも叶う。死でさえ覆せる。ただし、一日に一度だけ。……それを忘れるな』
ナユは布団の中で、赤ん坊らしからぬ心のメモを取った。
「今日の記録:両親を救った。願いは一日に一回。万能。死者蘇生も可能。……要するに、毎日一つ“日報”を書くようなものか」
母はナユを抱きながら涙をこぼし、父は感謝を繰り返した。
空腹も寒さも、しばらくは心配ない。
だが、村の人々も飢えている現実は変わらない。
次に救うべきは――両親だけでなく、この村全体だった。




