第207話《集結》
朝の校庭には、三つの科の生徒達が既に列を作っていた。
空気はひんやりしているのに、皆の息づかいが重なり合って、妙な熱気が漂っている。
「ナユさん、こっちこっち!」
ルゥが手を振る。
ティトとメリアもその横に立っていて、ナユが駆け寄ると、小さく笑った。
「装備、全部持ってきたのです!」
「うん。忘れ物がなくて良かったわ」
メリアが確認するように頷く。
「ぼ、僕も……薬草と道具、ちゃんと持ってきました」
ティトが胸の前で袋を抱えながら言う。
「頼りになるのです!」
そんな三人に混ざるように、柔らかい声が聞こえた。
「……あの。ナユさん、少し、いいかしら?」
振り向くと、そこにマリエルが立っていた。
以前のような気負いはまったくなく、むしろ少し頬が赤い。
「今日はよろしくね、ナユさん」
「こちらこそなのです。マリエルさんと一緒だと心強いのです!」
ナユが素直に言うと、マリエルはその場でぴたりと固まり、耳まで赤くなる。
「……そ、そう……心強い……? べ、べつに……当たり前よ……」
「マリエルさん、照れてるのです?」
「て、照れてないわ!」
後ろからクスッと笑い声がした。
親善試合で戦った三人の貴族子息達が歩み寄ってきた。
「その……親善試合の時は悪かった」
「今日は協力しよう。足を引っ張りたくないしな」
「お前の判断は信頼に値すると、あの日で分かった」
ナユはぱっと笑顔になった。
「みんなと一緒なのは嬉しいのです。よろしくお願いします!」
和やかな輪が広がる。
その少し離れた場所――木陰で一人、レナレスが腕を組んで見ていた。
(……妙な子だ)
それだけを胸に、静かに視線を外す。
誰にも気づかれないように。
その更に奥、教師陣の集合場所では、ガルドナとオルフェンが言い合っていた。
「お前、今日こそは余計な魔法実験なんぞするなよ」
ガルドナが眉間に皺を寄せる。
「実験とは心外だな。私は事実を観察しているだけだ」
オルフェンは黒衣を揺らしながら、冷ややかに返す。
「お前の“観察”で生徒が怪我したら困るって言ってんだよ」
「君の怒号よりは安全だろう」
「なんだと?」
リュミエルが慌てて二人の間に飛び込む。
「は、はいはい!喧嘩しないでください! 生徒が見ていますから!」
そのやりとりに、生徒達からくすくすと笑いが漏れる。
遠征前の緊張が、少しだけほぐれたようだった。
『ナユ、ドキドキしていますね?まだ遠征とやらは始まっていませんよ?』
「初めて行く地なのです、やっぱりワクワクしてドキドキするのです!ミラはドキドキしない?」
『残念ながら、ミラは貴女のスキルなので……でも新しい情報を得るのは良い事ですね』
そして――ガルドナが最前列に立つ。
「全員、準備はいいな?これより白脈山陵へ向かう。出発するぞ!」
ざっ、と靴音が揃う。
初めて三科が同じ方向へ歩み始める瞬間だった。
「今日の記録:白脈山陵への遠征がいよいよ始まったのです!みんなと歩けるのが嬉しいのです!先生達がちょっとケンカしてたのは心配だけど、きっと大丈夫なのです!日報完了!」




