第21話《更新》
《時計》を得てから、ナユはずっと考えていた。
――一日一回の《願い》。
リセットはいつなんだ?
もし把握出来なければ、無駄にしてしまう。
それはサラリーマンにとって致命傷だ。
村人はそんな事を気にしない。
太陽が昇れば畑に出て、暗くなれば家に戻る。
時刻を刻む概念は、この世界には存在しない。
だからこそ、ナユにとってこの《時計》のスキルは唯一の武器だった。
検証を始める。
昼下がり、母が桶を持ち上げて苦労しているのを見て、ナユは小さな手を伸ばした。
――《願い》で桶を軽くしよう。
次の瞬間、桶は羽のように軽くなり、母は驚きの声を漏らした。
「えっ……持ちやすい……?」
これで今日の《願い》は使用済み。
あとは、再び使える瞬間を待つだけだ。
ナユは母の腕の中で眠ったふりをしながら、視界の奥に浮かぶ数字を見つめ続けた。
時は進み、村は夜を迎える。
松明の明かりが消え、静けさが広がる。
時計の数字が「23:59」から「00:00」へと変わる瞬間――
胸の奥に、再び《願い》が使える感覚が走った。
――これだ!
リセットは日付が変わる時!
毎日、零時に更新される!
ナユは心の中でガッツポーズを決めた。
これで一日一回のサイクルを完全に管理出来る。
ムダなく使える。
これはサラリーマンにとって最大の安心感だった。
母は夜中に目を覚まし、ナユが「あー」「うー」と声をあげているのを見た。
ただの赤子の寝言にしか思わなかったが、その規則正しいリズムに小さな違和感を覚えた。
「……この子、毎晩同じ時間に声を出すのね……」
その噂は、やがて村人達に「やっぱり神子なのかもしれない」と囁かれるきっかけになるのだった。
「今日の記録:《願い》は深夜零時に更新。これで使用サイクルを完全管理……日報完了。」




