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神様の手違いで死んだ社畜おっさん、まずは自由を願い、次に明日を願う!TS転生し美少女に!最強チート《願い》は一日一回だけど万能です!異世界スローライフで世界も人も未来も救ってみせます!  作者: 兎深みどり
第五章《黒き騎士来訪編》

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209/212

第205話《再召》

 昼下がりの王立学園都市レリティアは、陽光に包まれて穏やかなざわめきを保っていた。

 中庭では生徒達が昼食を広げ、談笑し、風に揺れる木々がその声をやさしく受け止めている。

 何も変わらぬ、平和な学園の日常だった。


 ――ただ一人、ナユの胸の奥だけが、ずっと落ち着かなかった。


 ベンチに腰を下ろし、ナユはスープの入った小さな器を両手で持ったまま、じっと中庭の奥を見つめていた。

 視線の先には、騎士科の校舎がある方角。

 そこから、時折“何か”がこちらを覗いている気がしてならない。


 風が吹く。

 木の葉が揺れる。

 周囲の笑い声は、今日も変わらず賑やかだった。


(……やっぱり、変なのです)


 理由は分からない。

 気配も掴めない。

 でも、確実に――見られている。


「ナユさん、スープ冷めますよ」


 ティトが心配そうに声を掛ける。


「う、うん……飲むのです」


 そう答えながらも、ナユは結局ほとんど口を付けなかった。


(……こういう時は、直接聞くのが一番なのです)


 ナユはそっとベンチから立ち上がった。

 人目を避けるように、中庭の端にある木陰へと歩いていく。

 昼の光が葉の隙間からまだらに落ち、足元に不規則な影を落としていた。


 ナユは小さく息を吸い、両手を胸の前で合わせる。

 指先に、わずかな魔力が集まる感覚。


「オルランド、ちょっと来るのです」


 それはあまりにも軽い呼び方だった。

 まるで近所の知り合いを呼ぶような、何の緊張感もない声。


 次の瞬間。

 ナユの足元の影が、ふわりと盛り上がった。

 黒い水面のように揺らぎ、静かに裂ける。


 影の奥から、一人の男が歩み出る。

 黒衣を纏った、魔王オルランドその人だった。


「……昼から呼び出すとは、いい度胸だ」


「静かになのです、周りに人がいるのです」


 ナユは慌てて小声になる。


 オルランドは周囲を一瞥する。

 だが誰一人、突然現れた魔王の存在に気付いていない。

 認識阻害は、完全に機能していた。


「それで、何があった」


「ずっと、見られてる気がするのです」


 ナユは胸を押さえながら言った。


「誰かに、ずーっと、じーっとなのです」


 オルランドの視線が、すっと細くなる。

 ほんの一瞬、周囲の空気がわずかに張り詰めた。


「……なるほど」


「やっぱり気のせいじゃないのです?」


「気のせいではないな」


 オルランドは騎士科の方角へ、静かに視線を向けた。


「かなりの実力者が潜んでいるな」


「えっ」


「殺気は無い。だが隠密が深い。監視に長けた者だ」


「それって……敵なのです?」


「まだ分からん」


 オルランドは腕を組み、少し考え込むように沈黙した。


「今は観察だ。向こうもこちらを見ている」


「うーん……嫌なのです」


 ナユはむにゃっと口をすぼめる。


「見られるの、落ち着かないのです」


「だが、今は何もしない方がいい」


「むぅ……」


 不満そうな顔をしながらも、ナユは小さく頷いた。


「分かったのです。じゃあ、今日はこういう事で」


「呼び出しておいて、それか」


「だって昼休み終わっちゃうのです」


「理不尽極まりない」


 そう言いながらも、オルランドは再び足元の影へと沈んでいく。


「今宵は呼ぶな。仕事が立て込んでいる」


「やっぱり社長なのです」


「その呼び方をやめろ」


 黒い気配が静かに消え、木陰には再び昼の光だけが戻った。


 ナユは小さく息を吐く。


(……でも、少し安心したのです)


 遠くから、ルゥの笑い声が聞こえる。

 ティトとメリアの軽い言い合う声も、いつも通りだ。


 平和な昼休み。

 だがその裏で、“観察する者”は、確かに存在していた。


 そしてそれを知る者は、今のところ――ナユと魔王だけだった。


「今日の記録:ずっと見られてる気がしてオルランドを呼んだのです。本当にすごい人が隠れてるって言われたのです。敵かどうかはまだ分からないのです。少し怖いけど、ちょっとだけ安心したのです。今度からは昼休みに呼ばないようにするのです。日報完了」

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