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神様の手違いで死んだ社畜おっさん、まずは自由を願い、次に明日を願う!TS転生し美少女に!最強チート《願い》は一日一回だけど万能です!異世界スローライフで世界も人も未来も救ってみせます!  作者: 兎深みどり
第五章《黒き騎士来訪編》

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第203話《騎練》

 朝の訓練場は、すでに人の熱を帯びていた。

 砂を踏む音。

 木剣が打ち合わされる乾いた音。

 まだ幼さの残る声と、必死に息を整える荒い呼吸が混ざり合っている。


 レナは、騎士科初等部の一角に立っていた。

 黒い外套はすでに脱がされ、簡素な訓練着に着替えさせられている。

 六歳ほどにしか見えない小さな体。

 その見た目に、周囲の視線は自然と集まっていた。


「……ちっちゃいのが混ざってるぞ」


 誰かが囁いた。


「大丈夫か、あれ」


 別の声が続く。


 レナは、それらを一切気にしない。

 視線は常に前。

 砂の向こうに立つ教官だけを見ていた。


「整列!」


 太い声が訓練場に響く。


 即座に、子供達が慌てて列を整える。

 レナも、迷いなく一歩前へ出た。

 背筋は伸び、足の位置も正確だった。


「本日から騎士科初等部に仮配属された新入りが一名いる」


 教官の視線が、レナへと落ちる。


「名はレナ」


 短く告げられる。


「年齢は六」


 訓練場に、ざわりとした空気が走った。


「……六?」


「うそだろ」


「幼年組より小さいじゃないか」


 ざわめきを一瞥し、教官は続けた。


「騎士科に年齢の上下は関係ない。剣が振れるなら立て」


 視線が、まっすぐレナを射抜く。


「レナ。前へ」


 レナは、一歩踏み出した。


「模擬戦を行う」


 教官は隣の列を指差す。


「ユーク。相手をしろ」


 名を呼ばれた少年が、はっと顔を上げた。

 背丈はレナの倍近い。

 筋肉質で、すでに剣の扱いにも慣れが見える。


「……俺が、ですか」


「嫌か」


「い、いえ!」


 ユークは慌てて前へ出た。


 木剣が二本、砂の上に投げられる。


「構え」


 ユークは、すぐに中段に構えた。

 だが、レナは動かない。

 剣を手に取ったまま、ただ自然体で立っている。


「……構えろよ」


 ユークが戸惑い混じりに声をかける。


「必要ない」


 レナの声は静かだった。


「は?」


 教官が手を上げる。


「始め!」


 ユークは一瞬ためらい、それから踏み込んだ。

 横薙ぎの一撃。

 初等部としては十分に速い。


 だが。


 レナの足が、半歩だけ動いた。

 剣は、振るわれなかった。

 ただ、木剣の腹で打撃の軌道を“なぞる”。


 乾いた音が一つ。


 ユークの剣が、砂へと転がった。


「……え?」


 遅れて、ユークの体がぐらついた。


 次の瞬間。

 レナの木剣が、ユークの喉元で止まっていた。


 静寂が落ちる。


 誰も、すぐには声を出せなかった。


「勝敗、決した」


 教官の声が、低く響いた。


 ユークは目を見開いたまま、ゆっくりと後ずさる。


「……いま、何が」


「体重移動が遅かった」


 レナは淡々と告げた。


「剣に力を乗せすぎていた。初手で躱された時点で負け」


 教官の口元が、わずかに歪む。


「聞いたか、全員」


 視線が訓練場を見渡す。


「これが“型”だ。力でも、速度でもない」


 子供達の表情が、明確に変わった。

 嘲りは消え、代わりに困惑と警戒が浮かぶ。


 レナは、剣を下ろした。


(……人の剣は、やはり未完成)


 それは失望ではない。

 観察だった。


(だが、ここには“芽”がある)


 視線の先。

 訓練場の隅で、別の組が剣を振っている。

 その中に、わずかに“強い魔力の気配”があった。


(近くにはいる……いつか会えればそれでいい)


 教官が声を張る。


「位置に戻れ。次の組、前へ!」


 レナは無言で列へ戻った。


 周囲の視線は、今やはっきりと変質していた。

 警戒。

 畏怖。

 そして、強い興味。


 誰一人として、もう

 “幼い転入生”などとは見ていなかった。


(……順調だ)


 レナの胸中に、静かな確信が生まれる。


(陛下の“変化”へ至る道は、必ずこの学園の中にある)


 黒剣騎士は、身を隠す。

 変化の原因を求めて。

 だが確かに――


 運命の“歯車”は、今日ここで一つ、噛み合うのだった。

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