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神様の手違いで死んだ社畜おっさん、まずは自由を願い、次に明日を願う!TS転生し美少女に!最強チート《願い》は一日一回だけど万能です!異世界スローライフで世界も人も未来も救ってみせます!  作者: 兎深みどり
第五章《黒き騎士来訪編》

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第201話《騎動》

 夜の闇が、魔王城を静かに包み込んでいた。

 闇を切り裂く灯火は少なく、ただ冷たい風が長い回廊を吹き抜けていく。


 黒剣騎士レナレスは、一人城の回廊を歩いていた。

 甲冑は纏っていない。

 黒い外套だけを羽織り、足音をほとんど立てずに進む。


(……陛下の“気”が、変わられた)


 彼女は足を止め、天を仰いだ。

 胸の奥をざらりと撫でる違和感。

 それは恐怖でも不安でもない――明確な“揺らぎ”。


 昼間、玉座の間で陛下が戻られた時。

 空気が、ほんの僅かに柔らかくなっていた。

 冷たい鋼のような魔圧が、刃先を収めたかのように。


(この千年、あの方の波が乱れた事など、一度もなかった)


 レナレスは拳を握る。

 それは騎士としての忠誠ではなく、一個の剣士としての本能だった。


「――動く、か」


 背後から声がした。

 堕天の翼を失った男、ロズエルが廊下の闇から現れた。


「……相変わらず、気配を殺すのが下手ですね」


「おや、私を迎えにでも来たのか、黒剣騎士殿」


「違います。貴方が陛下の私室前をうろつく方が問題です」


 ロズエルは微笑み、胸に手を当てた。


「陛下の御身を案ずるのは、忠臣として当然でしょう?今宵は……何かが違う。貴女にもお分かりになるでしょう?」


「ええ。感じています」


 レナレスの声は静かだった。

 しかしその眼差しは、誰よりも鋭い。


「ですが、我々が踏み込む領域ではありません」


「ふむ、貴女にしては随分と慎重だ。いや――興味深い。陛下の変化を“怖れて”いるようにも見える」


「恐れてはいません。敬意を持って観察しているだけです」


 ロズエルは唇の端を歪めた。


「ならば、貴女の“観察”が無礼にならぬ事を祈りましょう」


 言い捨てて、ロズエルは闇の中へと戻っていった。

 その背中には、狂信と陶酔が入り混じっていた。


 レナレスはしばらく動かず、ただ沈黙した。

 そして、ゆっくりと視線を前へ向ける。


(……陛下は何かを掴まれた。それは“外”にあるものだ)


 人間界の方角へ、僅かに指先を伸ばす。

 黒い霧がレナレスの足元を包み、淡く輝いた。


「――確認が必要です」


 低く呟き、足音を立てずに歩き出す。

 誰にも気づかれぬまま、彼女は城を抜けた。


 夜明け前の空に、一筋の影が走る。

 黒き騎士、レナレス。


 その行き先は――学園都市ルーメリア。


 主の残留魔力を追う。


 そこに“光の子”の影があるとはこの時のレナレスは知らない。


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