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第198話《余波》

 校庭の封鎖が解かれたのは、日が大きく傾き始めた頃だった。

 破壊された地面は応急的に結界で覆われ、生徒達は遠巻きにその異変の中心を見つめていた。

 のんびりした空気に戻ろうとしているが、誰の顔にも緊張の名残が残っている。


 ルゥとメリアとティトは、三人並んで校庭の縁に立っていた。

 視線の先には、つい先ほどまでナユが立っていた場所がある。

 今は、もう誰もいない。


「……ナユさん、大丈夫でしょうか」


 ティトの声は、いつもより少しだけ弱かった。


「吹き飛んだのはオルフェン先生だけだったけど……あの相手、明らかに普通じゃなかったよね」


 メリアが、唇を噛み締める。


「ナユさん、笑ってたけどさ……あれ絶対、笑ってる場合じゃなかったと思う」


 ルゥは、珍しく冗談を挟まなかった。

 額に浮いた汗を拭いながら、沈んだ声で続ける。


「……戦ってたよな。あれ、どう見ても“召喚獣”のレベルじゃなかったぞ」


 三人は同時に、同じ記憶を思い返していた。

 闇が空を覆った瞬間。

 ナユが、真正面からそれに踏み込んでいった姿。


 歓声も、悲鳴も、途中から誰も上げられなくなった。

 ただ、理解出来ないものを見ている沈黙だけが支配していた。


「でも……ナユさん、戻ってきますよね」


 ティトが、祈るように言った。


「学園長先生も一緒に行ったし……たぶん、王城でお説教だよね」


 メリアはそう言いながらも、不安を隠しきれていない。


「……お説教で済めばいいけどさ」


 ルゥは、遠く王城の方角を見つめたまま呟いた。


「ナユさん強かったな……」


 風が、校庭を吹き抜ける。

 壊れた地面を撫でるように、冷たい空気が流れた。


「……あの人」


 ルゥが、そっと口を開いた。


「ナユさんの後ろに立ってた、あの人……一体、何なんだろうな」


 メリアも、小さく頷く。


「学園長先生、あの人を見た瞬間に、空気変わったよね」


「うん」


 ティトは、はっきり言った。


「“ヤバい”って顔してた」


 三人は、それ以上言葉を続けられなかった。

 あの場にいながら、ナユだけがあの存在と対等に向き合いった。


 それが、今はただ――怖かった。


「……ナユさん、無事でいてください」


 ティトが、ぎゅっと胸の前で手を握る。


「戻ってきたら、絶対問い詰めるよね」


 メリアが、小さく苦笑した。


「もちろん」


 ルゥは、真剣な顔で頷いた。


「“何と戦ったのか”だけは、ちゃんと聞かないとな」


 三人の視線は、もう一度だけ、王城の方角へ向けられた。

 そこに、今もナユがいる。

 そして――三人には、まだ知らされていない“何者”かと一緒に。


「今日の記録:校庭の後片付けはすごく大変そうだったのです。ルゥさんとメリアさんとティトさんは、ずっとわたしの事を心配してくれていたみたいなのです。王城に行っている間、三人とも落ち着かなかったらしいのです。帰ったらちゃんと説明しないとなのです。日報完了」

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