第197話《会議》
謁見の間の扉が、重々しい音を立てて閉じられた。
ナユと魔王の姿は、もうそこにはない。
残されたのは、王と学園長、そして数名の重臣のみだった。
場を包んでいた異様な気配が、ようやく少しだけ薄れる。
「……とんでもないものが、学園に訪れたれたようじゃな」
王が、深く息を吐く。
「訪れた、というより、引き当てたと言うべきかの」
学園長は、静かに答えた。
「まさか、あの召喚で“魔王”そのものが来るとは、誰も予測など出来ぬ」
大臣の一人が、震える声で続ける。
「契約まで成立しているのですよね……?」
「成立しておる」
学園長は、即答した。
「術式も、魂の結び付きも、完全じゃ」
別の大臣が、机を叩く。
「それはつまり――あの子が、魔王を従えているという意味になる……!」
「正確には“従えている”のではない」
学園長は、視線を伏せたまま言った。
「対等な“契約者”じゃ。あれは主従ではない」
王が、指を組んだ。
「勇者ゼノアが相打ちしたと伝えられていた魔王」
「その存在が、今、ここに来て、なおかつ――」
「あの子と契約している」
重臣達の顔色が、一斉に変わる。
「これが意味するものが、分かるか」
王の声は低い。
「勇者ゼノアは魔王によって倒された……そして、世界の均衡が、“一人の少女”に預けられたという事じゃ」
沈黙が落ちる。
重すぎる事実だった。
「しかし……」
学園長が、ふっと小さく息を吐く。
「だからと言って、あの子を縛る事は出来ぬよ」
「縛れば、壊れる」
「壊れれば、魔王は自由になる」
「結果は、最悪じゃ」
王は、目を閉じた。
「では、どうする」
「見守るしかない」
学園長は、はっきりと告げた。
「今まで通り、あの子は“ナユ”のままじゃ」
「光の子とやらでも」
「魔王の契約者でもなく」
「一人の、規格外な少女として、学園で生き続ける」
王は、ゆっくりと息を吐いた。
「……それが、最も危険で、最も安全な選択か」
「皮肉なものじゃがの」
誰も、否定出来なかった。
この世界は今――
一人の少女の“日常”に、全てを委ねてしまったのだから。
「今日の記録:王様と学園長と大臣さん達で、魔王の事についてすごく真剣なお話をしていたみたいなのです。わたしと魔王は外で待っていたのですが、なんだか世界が大変な事になっている気配を感じたのです。でも、わたしはいつも通りで良いと言われたのです。いつも通りが一番難しい気がするのです。日報完了」




