第195話《契約》
校庭の中心で、光と闇が正面から喰らいついた。
衝突の度に、空間がひび割れるような音を立てる。
風は逆巻き、地面はもはや原形を留めていなかった。
闇が、完全に黒ではなくなっていた。
それは“深さ”そのものだった。
底の見えない圧力が、世界に沈み込む。
「これが……我が本気だ」
低く、世界を押し潰すような声。
闇が“存在”として立ち上がり、空間そのものが踏み締められる。
だが。
その中心で、ナユは――
笑っていた。
「……すごいのです!」
楽しそうに、心から。
「ちゃんと本気なのが、しっかり伝わってくるのです!」
白い光が、爆発する。
ただの輝きではない。
“押し返す意思”そのものが、形を取っていた。
闇が押し潰しにかかる。
光が正面から押し返す。
圧壊。
破砕。
衝撃が何重にも重なり、校庭の外壁がすべて崩れ落ちた。
それでも――
ナユの足は、退かなかった。
一歩。
また一歩。
小さな身体で、闇そのものへと踏み込んでいく。
「わたしの召喚獣にするなら……このくらい越えないと、あなたに失礼なのです!」
その言葉に、“それ”は――
確かに、笑った。
「……ああ」
闇が、更に深く沈む。
だが、同時に。
光が、それ以上に前へ出た。
次の瞬間。
光が、闇の“芯”を、正面から貫いた。
世界が、一瞬、音を失う。
闇が、崩れた。
圧力が消え、深淵が霧散し、校庭に静寂が戻る。
その中心で、ナユは――無傷で、立っていた。
「……負けだな」
静かな声。
だが、そこに悔しさはなかった。
ナユは、まっすぐ手を差し出す。
「約束なのです。勝ったので、契約なのです」
一瞬の沈黙。
そして――
「……面白い」
低く、確かに。
「お前は、本当に厄介だな」
そして、僅かに口元を緩めた。
「……良いだろう。此度の勝負、そしてこの巡り合わせは運命なのだろう」
闇が、再び集まり始める。
だがそれは、もはや圧迫する力ではなく、静かな渦だった。
「我は――お前との契約に応じる」
世界が、一瞬だけ静止したかのように感じられた。
ナユの瞳が、ぱっと輝く。
「本当なのです!?」
「ああ」
白い光と、黒い闇が、静かに重なり合う。
その瞬間。
確かに、一つの“繋がり”が、世界に刻まれた。
ナユは、満足そうに頷いた。
「これで、毎日組手が出来るのです!」
低い笑いが、重なった。
「……本当に、厄介な奴だ」
こうして。
世界にとって最も危険な存在の一つは――
一人の“光の子”の手の内へと、収まった。
「今日の記録:やっぱりこの人は魔王でした!魔王と戦って、ちゃんと勝って、ちゃんと契約したのです。本気の魔王はとても強くて、とても楽しかったのです。これで毎日、組手が出来る相手が出来たのです!とてもワクワクするのです!日報完了」




