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第192話《顕現》

 生徒達は城壁の外側に設けられた広大な演習用校庭に集められていた。

 土の匂いと魔力が混じる、実技専用の場所だった。


 前方に立つのは、黒衣の新任教師――オルフェン・クロウ=ヴァルド。


「今日は召喚の実習を行う」


 低く抑えた声が、校庭全体に行き渡る。


「屋外で行う理由を知りたい者もいるだろう」


 オルフェンは間を置かず続けた。


「過去に教室内で召喚を行い、ドラゴンを出現させた愚か者がいた」


 空気が一段重くなる。


「ドラゴンは暴走。制圧まで三十分。校舎は半壊。死者は出なかったが、それは単なる運だ」


 視線が、生徒達を一人ずつ貫いていく。


「それ以来、召喚は必ず屋外。それがルールとなった、まぁ俺は来たばかりだから知らんがな」


 ざわつきが走るが、ナユの耳にはほとんど届いていなかった。


 視線はすでに地面へ。

 意識は、足元に描かれた魔法陣だけに向けられていた。


(ドラゴン……バハムート……来ないかな?わくわく)


 実習は順番に進んでいった。

 誰かが成功した。

 誰かが失敗した。

 誰かが気絶した。


 歓声も悲鳴も、ナユには遠い世界の音だった。


 やがて、最後の順番が来る。


「次だ」


 オルフェンの視線が、まっすぐナユに向く。


 ナユは小さく一歩、前へ出た。

 周囲の空気が、張りつめる。


「意識を逸らすな。魔力を“流す”のではない。“注ぎ込め”」


 オルフェンの声だけが届く。


 ナユは頷かない。

 答えない。

 すでに、魔力を解放していた。


 膨大な光が、魔法陣へなだれ込む。

 地面が唸り、風が巻き上がる。

 魔法陣の線が、白熱するように輝き始めた。


「……なんだ、この馬鹿げた魔力量は」


 オルフェンの低い声が走る。


「それ以上は――」


 止まらない。

 ナユの魔力は“調整”という概念を置き去りにしていた。


 空間が歪む。

 空が軋む。

 魔法陣の中心が、底なしの黒へと変質した。


 次の瞬間。


 何かが、こちら側へ“歩いて”来ようとしていた。


 オルフェンの瞳が、初めて見開かれる。


「……な」


 静かな声だった。


「なんだ、このおぞましい魔力は!?」


 魔法陣の奥で、何かが笑った気配がした。


 風が止まり。

 光が収束し。

 黒い影が、完全にこの世界へ形を得る。


 校庭の中心に、

 “それ”は、静かに立っていた。


 誰一人、声を出せなかった。


 オルフェンだけが、一歩前へ出る。


「逃げろ!!!……全員すぐに逃げろ!!!」


 ナユは、まだ何も言わない。

 ただ、目の前の存在を、まっすぐ見つめていた。


「今日の記録:召喚の実習で、わたしは魔力を止めなかったのです。今の自分の魔力で、どこまでの事が出来るのか、少し興味が湧いたのです。魔法陣の奥から、明らかに普通ではない存在が顕現したのです。校庭の皆は一瞬で静まり返って、オルフェン先生が全員に退避を命じたのです。でも、わたしは逃げないのです。ワクワクの方が勝っているのです!!日報完了。」

バハムートでは……ない!?

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