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第190話《始業》

 朝の講堂には、生徒達のざわめきが満ちていた。

 ナユは席に着いて静かに前を向いていた。

 その隣でティトは机に突っ伏し、魂がほとんど抜けている。


 ルゥが心配そうに身を乗り出した。


「ティト、大丈夫なの?顔真っ白だよ?」


 メリアも頬を寄せる。


「ティト君……なんか、揺れてる……?」


 ティトは震える指で小さく答えた。


「ぼ、ぼく……もう……だめ……」


 ルゥが首をかしげた。


「何があったの?」


 ティトは口を開きかけたが、――その瞬間。


「静粛に」


 講堂全体がぴたりと止まった。

 壇上の学園長が静かに前を見渡していた。


 生徒達の背筋が一斉に伸びる。


 講堂の空気がすっと引き締まる。


 


 学園長がゆっくりと口を開いた。


「本日より二学期を始める。皆、日々の研鑽を惜しまぬように」


 低く落ち着いた声が、広い講堂に響く。


「さて。魔法科の教員についてだが……前任は“とある不祥事”により罷免となった」


 ざわ……と小さな波が走る。


 ティトはもう一度倒れかけたが、ルゥがそっと支えた。


「今期より新たに魔法科を、そして魔法を扱う全ての科の魔法基礎授業を担当する者を迎える」


 学園長が視線を横へ向けた。


「入れ」


 足音が一つ。

 空気が、ひやりと変わった。


 


 黒衣の青年が講堂へ姿を現した。

 艶のない黒髪。

 灰銀の瞳。

 首元までボタンを閉じた、冷ややかな印象の服装。

 生徒達が思わず息を呑む。


 その名を、学園長が告げる。


「オルフェン・クロウ=ヴァルド。今期から魔法科、並びに全科の魔法教育を担当する」


 オルフェンは無言で一礼した。

 その動きは丁寧だが、どこか棘を感じさせる。


「……以上だ。各自、教室に戻りなさい」


 椅子が動き、生徒達がざわめきながら立ち上がる。


 


 ルゥが小声で言った。


「ちょっと……怖そうな人だね……?」


 メリアが首をすくめた。


「……あの目、絶対優しくない……」


 ティトだけはまだ机を抱えたまま揺れている。


 ナユはそっと立ち上がり、二人を促した。


「授業が始まるのです。戻るのです」


 ティトは涙目で椅子を掴む。


「ぼ、ぼく……今日は……歩ける気がしない……」


「大丈夫なのです!わたしのせいだからわたしが連れて行くのです!!身体強化魔法ブースト!!」


 ナユはティトを片手で持ち上げてそのまま教室に連れていく。


「ナユさんやめっ、恥ずかしい!あと、うぷっ……出そう……」


 こうして二学期は、静かに、そして少し不穏に幕を開けた。



「今日の記録:ティトぐったりしていたのです。ごめんなさいなのです。ルゥさんとメリアさんに心配されていたのです……。始業式では、新しい魔法の先生が紹介されたのです。名前はオルフェン・クロウ=ヴァルドさん。魔法科だけでなく、他の科にも魔法の基礎を教えてくれるみたいなのです。ちょっと怖そうなのです。でも、頑張るのです。――日報完了。」

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