第187話《布陣》
王都から送られた大規模支援部隊が、次々と深淵前の広場へ到着し始めた。
騎士団が通路を開け、荷馬車、魔道具を積んだ台車、計測器具を抱えた人々が整然と列を作って進む。
(……本当に、来てくれたのです)
胸の奥がじんわり温かくなる。
“多い”と驚く段階はもう過ぎた。
今のナユは、その一人ひとりの顔をしっかり見つめる余裕があった。
「子爵様!王都よりの配置案をお持ちしました!」
騎士団長が走り込み、敬礼する。
ナユは書類を受け取り、ぱっと目を通した。
(……冒険者ギルド、商人ギルド、職人ギルド……全部ちゃんと分かれているのです)
その時だった。
「道を開けろォ!冒険者ギルド、前へ出るぞ!」
力強い声が前方から響き、騎士達が左右へ下がる。
現れたのは、肩幅が二倍はある大男。
鋼のような腕、獣のような風貌──だが、眼は驚くほどまっすぐだった。
「お前が……子爵ナユ様だな?」
「はいなのです!」
大男は胸を叩き、名乗った。
「冒険者ギルドA級部隊『誓いの戦斧』の隊長、バルゴ・ハーランドだ!」
その名を聞いた瞬間、周囲の冒険者達がざわめいた。
「A級が直々に……」
「王都でも五指に入る実力者だぞ……!」
バルゴは腕組みし、にやりと笑った。
「――A級冒険者《戦女神》に憧れて、この道に入った。あの英雄が“守る場所”を探し歩いたように、俺も守る場所を探してたんだ」
その瞳が、アビスと整地された地平を見渡す。
「だからよ。子爵様が作るっていう“国一つ分の街”……俺の魂が叫んだんだ。──守る価値がある、ってな」
胸の奥がぽっと熱くなる。
「……ありがとうなのです。バルゴさん」
「礼はいい。俺はただ、俺のやりてぇようにやるだけだ」
彼はそう言って、隊員達に振り返る。
「聞いたか野郎ども!ここは今日から俺達の“戦場”じゃねぇ。“未来”だ!生半可な気持ちで来た奴は帰れ!本気で守る気がある奴だけ残れ!!」
冒険者達全員が胸に拳を当て、一斉に声を上げた。
「「応ッ!!」」
(……すごい熱量なのです)
ナユは思わず微笑んだ。
◆
次に現れたのは、どっしりとした体格の男。
金と銀の装飾をあしらった豪奢な服。
丸い腹を揺らしながら、両手を広げて歩み寄った。
「子爵様ーーーッ!来ましたぞ!商人ギルド特別代表隊、総勢三百名!!」
「商人さん……!」
ナユが目を丸くすると、彼はにこにこ笑いながら胸を張った。
「資材管理、物流路の確保、物価調整、店舗誘致、資金管理──全部まとめて我々が担当する!“街の血流”は商人の手で作られるもの。何でも任せなされ!」
「頼もしいのです!」
部下の商人達も各々名乗り出た。
「建材の相場はお任せを」
「王都からの物流は私が統括します」
「市場区画の設計案を持ってきました!」
(……みんな、本気で手伝ってくれるのです)
◆
続いて、土に染まった手の職人達が並ぶ。
鍛冶師、建築師、魔道具技師──どの顔も厳しく、誇りがある。
その先頭に立つのは、頑固そうな髭の男、ナユは初めて見たが恐らくドワーフの人なのかなと、胸を高鳴らせる。
「……子爵様。鍛冶工匠ギルド代表、大工長のグランだ」
「よろしくなのです!」
「王都の鍛冶場を半分空にして来た。武具、農具、建築資材……必要なものは俺達が全部作る。――ただし。手は抜かねぇ。“国を作るつもり”で来ている」
「はいなのです!」
その言葉に、ナユは心の底から頭を下げた。
◆
さらに、白い外套を纏った教会の一団が近づいてきた。
「子爵様。聖堂協会より、治療班と結界班を派遣いたしました」
「教会の人も……来てくれたのです?」
「当然です。街には祈りと学びの場が必要ですから」
柔らかい声の司祭は、優しく微笑んだ。
「あなたが作る街で……きっと多くの人が救われるでしょう」
(……それなら、頑張るのです)
◆
全ての部隊が配置につき、
アビス周辺は、まるで小さな王都のように賑わい始めていた。
バルゴが腕を組んで、静かに言った。
「これだけの面子が揃うなんてな……子爵様、本気で“国”を作る気だろ?」
その言葉に、ナユは迷いなく答えた。
「みんなが安心して暮らせる街を……作るのです!」
「へっ。なら俺達も全力で応えるだけだ」
冒険者ギルドの旗が翻る。
商人ギルドの荷馬車が動き始める。
職人達の槌音が響き、聖堂の祈りが広がる。
(……楽しくなってきたのです!)
「今日の記録:王都から来た人達が全員そろって、それぞれの仕事を始めてくれたのです。冒険者さん、商人さん、職人さん、教会のみなさん……頼もしいのです。日報完了。」




