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第186話《帰還》

 王城での大評議が終わった翌朝。

 陽が昇る前から王都はざわつき始めていた。


 冒険者ギルドの前には、選抜された討伐隊が列を作り、

 商人ギルドでは資材輸送の馬車が組まれ、

 職人ギルドでは鍛冶師や大工達が荷物をまとめている。


 ──国中が、一つの街の為に動き出していた。


 


 王城の玄関前。

 ナユとセバスチャンは、すでに帰還の準備を整えていた。


「ハルメリア子爵殿!」


 アンダルシアン公爵が歩み寄ってくる。

 その背後には、見覚えのある艶やかな黒髪。


「ナユ!」


「アニス!」


 アニシアは大きく手を振って駆け寄り、その場で立ち止まると息を弾ませた。


「本当に街を作るの……? お父様から聞いて、びっくりしたわ!」


「はいなのです。絶対に……作るのですよ」


 ナユの微笑みに、アニシアの表情もやわらかくほどけた。


「じゃあ……またすぐに遊びに行くから!絶対に呼んでね!」


「もちろん、なのです」


 


 そこへもう一人、静かに歩み寄る影。


「ナユさん」


「マリエルさん!」


 アーシェ侯爵令嬢のマリエルが、小さく微笑む。


「……気をつけてね。お父様も、全面協力すると言っていたわ。わたしも……いつか、あなたの街を自分の目で見たい!」


「いつでも来るのです。みんなで暮らせる楽しい街にするのです!」


 


 温かな別れの言葉に包まれながら、

 ナユとセバスチャンは馬車へ乗り込んだ。



 馬車が王都の門を出ると、すでに数百名規模の行列が準備を整えていた。


「こ、こんなに……?」


 ナユが目を丸くすると、セバスチャンが静かに説明した。


「王城の決議のあと、各ギルドが“先発部隊”として派遣した者達です。討伐隊、輸送隊、測量師、土魔法士、大工、鍛冶職人……すでにこれだけの人々が、子爵様の街の為に動いています」


「……すごいのです」


 胸の奥で、小さく温かい火が広がる。


 


「進めーっ!」


 冒険者ギルドの隊長が号令をかけ、列がゆっくり森へと向かって進んでいく。


 その中央を、ナユの乗った馬車が走る。



 道中、セバスチャンが静かに問いかけた。


「ナユ様……少し、緊張しておられますか?」


「うーん……緊張というより……」


 ナユは胸に手をそっと当てた。


(……みんなの“期待”がすごいのです)


「……がんばらないと、なのです」


 セバスチャンは柔らかく微笑む。


「ナユ様は……もう十分に頑張っておられます。あとは皆が、“ナユ様の夢を手伝いたい”と勝手に動くでしょう」


「勝手に……?」


「はい。子爵様は……そういう方です」


 風が馬車の窓から入り、森の香りが流れ込む。


(……そうなのかな……?)


(でも……うれしい、のです)



 そして──


 見慣れた巨大な黒壁が、森の奥から姿を現した。


 深淵アビス


 その周囲には、すでに遠目にも分かるほどの人影が集まり、

 整備された円形地帯へ向かって運び込まれる資材と荷車の列。


「……帰ってきたのです」


 


 馬車を降りた瞬間、騎士団長が駆け寄って叫んだ。


「子爵様!! お帰りなさいませ!!」


「ただいまなのです!」


 騎士達が一斉に揃って頭を下げる。


「子爵様ご帰還!」

「おかえりなさいませ!!」

「ギルドからの援軍がすでに百名以上!さらに追加が向かっております!」


「おお……こんなに……!」


 その中に、ティトとミナもいた。


「ナユさん、おかえりなさい!!」

「ナユ様!! めっちゃ人増えてます!!」


「みんな、これから忙しくなるのです!頑張ろー!」


「御意ーーッ!!」


 空に響く雄叫び。

 整地の地面が震えるほどの活気。


 


(……びっくりなのです)


 胸の中に、はっきりと確信が生まれた。


(すごい街になりそうなのです!!)


「今日の記録:王都で街づくりの協力をお願いして、たくさんの人がついてきてくれたのです。公爵さんや侯爵さんも助けてくれるのです。深淵アビスの周りはもうすぐ、本当に街になるのです!日報完了。」

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