第186話《帰還》
王城での大評議が終わった翌朝。
陽が昇る前から王都はざわつき始めていた。
冒険者ギルドの前には、選抜された討伐隊が列を作り、
商人ギルドでは資材輸送の馬車が組まれ、
職人ギルドでは鍛冶師や大工達が荷物をまとめている。
──国中が、一つの街の為に動き出していた。
王城の玄関前。
ナユとセバスチャンは、すでに帰還の準備を整えていた。
「ハルメリア子爵殿!」
アンダルシアン公爵が歩み寄ってくる。
その背後には、見覚えのある艶やかな黒髪。
「ナユ!」
「アニス!」
アニシアは大きく手を振って駆け寄り、その場で立ち止まると息を弾ませた。
「本当に街を作るの……? お父様から聞いて、びっくりしたわ!」
「はいなのです。絶対に……作るのですよ」
ナユの微笑みに、アニシアの表情もやわらかくほどけた。
「じゃあ……またすぐに遊びに行くから!絶対に呼んでね!」
「もちろん、なのです」
そこへもう一人、静かに歩み寄る影。
「ナユさん」
「マリエルさん!」
アーシェ侯爵令嬢のマリエルが、小さく微笑む。
「……気をつけてね。お父様も、全面協力すると言っていたわ。わたしも……いつか、あなたの街を自分の目で見たい!」
「いつでも来るのです。みんなで暮らせる楽しい街にするのです!」
温かな別れの言葉に包まれながら、
ナユとセバスチャンは馬車へ乗り込んだ。
◆
馬車が王都の門を出ると、すでに数百名規模の行列が準備を整えていた。
「こ、こんなに……?」
ナユが目を丸くすると、セバスチャンが静かに説明した。
「王城の決議のあと、各ギルドが“先発部隊”として派遣した者達です。討伐隊、輸送隊、測量師、土魔法士、大工、鍛冶職人……すでにこれだけの人々が、子爵様の街の為に動いています」
「……すごいのです」
胸の奥で、小さく温かい火が広がる。
「進めーっ!」
冒険者ギルドの隊長が号令をかけ、列がゆっくり森へと向かって進んでいく。
その中央を、ナユの乗った馬車が走る。
◆
道中、セバスチャンが静かに問いかけた。
「ナユ様……少し、緊張しておられますか?」
「うーん……緊張というより……」
ナユは胸に手をそっと当てた。
(……みんなの“期待”がすごいのです)
「……がんばらないと、なのです」
セバスチャンは柔らかく微笑む。
「ナユ様は……もう十分に頑張っておられます。あとは皆が、“ナユ様の夢を手伝いたい”と勝手に動くでしょう」
「勝手に……?」
「はい。子爵様は……そういう方です」
風が馬車の窓から入り、森の香りが流れ込む。
(……そうなのかな……?)
(でも……うれしい、のです)
◆
そして──
見慣れた巨大な黒壁が、森の奥から姿を現した。
深淵。
その周囲には、すでに遠目にも分かるほどの人影が集まり、
整備された円形地帯へ向かって運び込まれる資材と荷車の列。
「……帰ってきたのです」
馬車を降りた瞬間、騎士団長が駆け寄って叫んだ。
「子爵様!! お帰りなさいませ!!」
「ただいまなのです!」
騎士達が一斉に揃って頭を下げる。
「子爵様ご帰還!」
「おかえりなさいませ!!」
「ギルドからの援軍がすでに百名以上!さらに追加が向かっております!」
「おお……こんなに……!」
その中に、ティトとミナもいた。
「ナユさん、おかえりなさい!!」
「ナユ様!! めっちゃ人増えてます!!」
「みんな、これから忙しくなるのです!頑張ろー!」
「御意ーーッ!!」
空に響く雄叫び。
整地の地面が震えるほどの活気。
(……びっくりなのです)
胸の中に、はっきりと確信が生まれた。
(すごい街になりそうなのです!!)
「今日の記録:王都で街づくりの協力をお願いして、たくさんの人がついてきてくれたのです。公爵さんや侯爵さんも助けてくれるのです。深淵の周りはもうすぐ、本当に街になるのです!日報完了。」




