第184話《招集》
円形の中心区画に測量用の杭が打ち込まれ、街の“心臓”は形を持ち始めていた。
しかし、その場に立つナユの眉はほんの少しだけ沈んでいた。
(……やっぱり、足りないのです)
騎士達は汗だくになりながら測量線を引き続けている。
だが、まだ必要なのだ。
測量班。
防衛班。
伐採班。
整地班。
地盤調整班。
土魔法班。
道具修理班。
――どれも人数が足りなかった。
「子爵様、次の区画へ進みますか?」
騎士団長が声をかけてきたが、ナユは小さく首を振った。
「……中心区画は出来てきたのです。でも……その外側に広げるには……“人”が足りないのです」
団長ははっと息を呑んだ。
「……たしかに……これ以上は、現人数では限界が来ます」
セバスチャンが静かにナユの横へ立つ。
「ナユ様……ここから先は、外部の協力が必要かと」
「はいなのです」
ナユは決意を込めて頷いた。
「一度、王都に戻るのです。冒険者ギルド、商人ギルド、各職人ギルド……全部の力を借りるのです」
「御意。お供いたします」
「騎士団!子爵様を守りつつ王都に戻るぞ!!」
「いえ、来るのは……セバスチャンだけでいいのです。みんなにはここで整地を続けてもらうのです」
騎士達が驚いて振り向いた。
「こ、子爵様自ら王都へ……?」
「街づくりは……わたしが“お願い”しないと始まらないのです」
その声は小さいが、決意は揺るぎなかった。
◆
王都へ到着したその日のうちに、王城に知らせが届いた。
「子爵ナユ殿より“街づくりへの協力”を求む緊急要請……?」
国王は目を丸くし、そのまま重鎮たちへ通達を出した。
――翌日。王都の大評議室。
冒険者ギルドマスター。
商人ギルドマスター。
鍛冶ギルド、錬金ギルド、建築ギルド。
教会の司祭たち。
王、公爵、侯爵を書記が囲み、重々しい空気が満ちていた。
「子爵様。ここへ何のご用で?」
王が促すと、ナユは地図を広げた。
「わたしは今……“街”を作っているのです」
静寂。
ナユは淡々と円形の地図を指し示す。
「アビスを中心に、ギルド街、商業区、職人街、学校、教会、居住区……そして巨大な城壁を作るのです」
冒険者ギルドマスターが目を細めた。
「……子爵様。それは……王都級の規模だぞ?」
「はいなのです。王国ひとつ分くらいの……大きさなのです」
室内が震えた。
「無茶だ!」
「6歳の子どもが考える話ではない!絵空事だ!!」
「人手も技術も、資金も足りぬ!」
「城壁など、国家事業ではないか!」
次々に声が上がる。
(……やっぱり、言われるのですね)
だが、ナユは揺れなかった。
「でも……必要なのです。みんなが安心して暮らせる街には……全部必要なのですよ」
その時――
会議室の後方で一人が立ち上がった。
丸い体に、商人特有の豊かな衣服。
――商人ギルドマスターだった。
「子爵様の話を笑う前に……私から話がある」
その声に、場が静まり返る。
「一年前。宿場町リュミエへ向かう途中……私は“ジャイアントワーム”に襲われて死にかけた。馬車は壊れ、護衛は倒れ……私はもう終わりだと思った」
ナユは商人ギルドマスターをまじまじと見て驚く。
「あの時の商人さん!?」
彼はニヤり笑い、ゆっくりと息を吸う。
「だが――あの時、子爵様は迷わず私を助けてくださった。あの小さな体で、まさに勇者のように」
室内がざわつく。
「その恩に報いる為、私は努力し、今こうしてギルドマスターになった。だから言える……この子は――“次世代の勇者”だ!!」
王族も冒険者ギルドも、ざわりと色を変える。
「子爵様が作ろうとしている街は……きっと世界を変える。私達商人ギルドは、全ての力をもって協力する!!」
しかし反論はまだ出る。
「だが……それでも金が足りん!」
「工房を建てるのに莫大な費用がかかる!」
「魔道具の城壁など作れる訳がない!」
その瞬間――
「……はぁ」
ナユは少しだけ肩を落とした。
「しょうがないのです……」
そして、
アイテムボックスを開いた。
空間が裂ける光がゆらめき――
テーブルの上に、キラキラ輝く金色の瓶が100本並ぶ。
会議室が、完全に“止まった”。
「こ、これは……もしや、エリクサー……!?」
「全部、本物……?百本くらい無いか!?」
「一つで王都の屋敷が買える神薬を……百……!?」
「子爵様はアイテムボックス持ちだったのですな」
ナユは小さく首をかしげた。
「これで……足りないのです?」
商人ギルドマスターが崩れ落ちそうになりながら叫んだ。
「――足りすぎるわッ!!」
会議室が爆発したようにざわめき、
その瞬間 街づくりプロジェクトは正式に始動した。
「今日の記録:王都で街づくりの“協力”をお願いしたのです。反対もあったけれど……エリクサーで全部解決したのです。お金ってどの世界でも偉大なのです。やってて良かったエリクサー貯金!……日報完了。」




