第41話:潜入!地下三階
●主人公:アーヤ・アーデン
彼女はアルディナ王国の王都アルディナで、神殿の職務にあたる神官。以前は巫女だったが、その力を見込まれ神職試験を経て神官となった。
夫と子供二人を家族とし、仕事と家庭を両立するキャリアウーマン。清楚で真面目だが、心に秘めた好奇心と、誰にも言えない夢がある33歳である。
太陽の神子として覚醒し、世界を作り変えるために、神が作り出した六魔王を導く宿命を持つ。
●グレイ・リヴァント
神殿騎士団の副長を務める高身長のイケメン38歳。
筋肉質で短く整えられた黒髪は、鋭い青い目の視線を際立たせる。
戦闘では冷静沈着で真面目な性格からは想像できない強さと熱さを発揮する。神殿では最も頼れる存在。
アルディナの伝説の剣士の末裔。
●ミラ・フィローネ
アーヤが目をかけている後輩巫女。快活で素直な性格であり、神殿内の人間関係にも明るい。アーヤを姉のように慕う。巫女としての霊的な力や知識は持っているが、まだ未熟で成長過程。ショートの鮮やか赤い髪がカワイイ22歳。
風の一族との関係がありそう。
●エリス
王都の西に位置する街マクホカタの山の麓リアケーアにすむネコの獣族。白毛に赤茶の耳、しっぽの先も赤茶色。
明るい性格でいつもおちゃらけているが、特別な獣族にのみ与えられる能力〈未来視〉を持つ。青氷色の左目と金色の右目、能力の違うオッドアイが獣族の未来を見る。好物はフィッシュバーガー。
「この下が地下三階です。あの水路は“地下大動脈”と呼ばれています。地上から染み込んだ雨水や、地脈から湧き出る水が集まる場所です。魔王にとっては、ここは要の拠点ってわけです」
「水はどの世界でも大切ってことか…」
水面に映る光が揺れ、エリスの瞳に反射した。
岩棚には小規模な休憩所や簡易の監視台がいくつも見える。
微かに煙の匂いが漂い、遠くから水路に落ちる水滴の音が規則正しいリズムを刻む。
だが、そのリズムは不意に崩れ、二人の緊張をより深めた。
「あそこ、見えますか?」
チョロスが崖下に見える出口を指を差す。
岩で組まれた自然の壁の下の方に一つの穴があいている。
「あぁ……あそこまで降りていくのか?」
エリスは色の違う両眼を見開き、その出口を確認する。
「そうです。こちら側から地下三階のフロアに入れるのは、あそこだけです」
「フロアに入るところに見張りがいる?」
「はい。あの通路の出口に立ってる二人、交代で侵入者を確認してます」
「まずは、あそこをどうやって抜けるか…だニャ…」
「大丈夫です。私に考えがあります」
チョロスは自身ありげにそう答えると、ゆっくりと振り返り、通路を進み出した。
「行きましょう!」
通路は緩やかに下り坂になる。
湿った岩肌に足を置くたび、滑らないよう神経を集中させる。
そして、通路の奥に潜む影がないか、目を凝らしながら歩を進める。
やがて坂を降り切ったところ、出口の光が見え始めた。
そこには、上から見た通り小柄な影が二つ立っていた。
背中を丸め、槍を抱えた小ネズミが二匹。
黒ずんだ毛並みにぎょろりとした目が光る。
「どうする…?」
エリスが低く呟いた。
背中の血が冷えるような緊張が走る。
チョロスは一歩前に出る。
「任せてください。私が話しをします」
「……いいか、下手に動けば即座に斬るからニャ」
エリスは鋭く警告するが、その手には無言の信頼が込められていた。
チョロスは小さく頷く。
ネズミの見張りが目を丸くした。
「おい……チョロスじゃねえか!ずいぶんと遅かったなぁ」
「いやぁ、上の連中に呼び出されてまして。伝令ですよ、ほら」
チョロスは肩を竦め、軽く笑った。
「伝令?…またか。…で、何だ、今度は?」
ネズミの目が鋭くチョロスを射る。
「地下大動脈の向こう側に“客人”が来ているそうで……魔王様直々のお出ましかもしれないから、周辺を厳重に警戒せよ、と」
チョロスは言葉を選びながら、動揺を隠す。
「なんだと?そんな話は聞いてねぇぞ!」
ネズミは思わず背後を確認し、何かを探すように目を泳がせる。
チョロスは小さく息を吸った。
「だから伝令なんです。詳しいことは知りませんが……最近、怪しい動きとかはありませんでしたか?」
「怪しい動き……?」
ネズミは考え込む。
「そうだな……岩の裂け目から変な風が吹いてきた。地脈そのものが怒ってるみたいで……水面も揺れてたな」
チョロスは微かに肩を震わせる。
(……ユルジークの怒気が、こんなところまで伝わっている……)
「それがどうかしたか?」
「いえ、大したことなくてよかったです」
会話をするチョロスたちを見ながら、エリスはその背後で影に潜み、岩陰からフロア全体を観察する。
水路に沿って組まれた簡易建造物、点在する小ネズミの影、微かに光る発光石、全てが地下三階の異様さを際立たせていた。
「……今だ」
エリスの声は風に溶けるほどに小さい。
チョロスが見張りの注意を引いた瞬間、エリスは身を低くし、影に紛れて地下三階フロアへ滑り込んだ。
岩陰に吸い込まれるように姿が消え、まるで暗闇そのものの一部になったかのようだった。
「と、とにかく……伝えましたよ。警護よろしくお願いします」
チョロスは必死に見張りの目を見つめ、声を震わせながら言った。
「わかったよ。とりあえず行けばいいんだな……」
見張りは焦燥混じりに頷く。
背後で、エリスの瞳が獲物を狙う猛禽のように光った。
地下三階の水路は静かに、しかし確実に二人の影を受け止め、深い闇が広がっていた。
「この隙にグレイさんたちが来てくれたら…」
「あぁ、やつらが戻ってくる前にここを抜けないと…」
チョロスは心臓の高鳴りを押さえながら、慎重に足を踏み出す。
エリスはすでに岩影を伝い、フロアの奥深くへ潜入していた。
二人の行動はまだ到着しない仲間たちのための準備だ。
地下三階の静寂は、もうすぐに訪れるだろう激しい戦いの序章を告げていた
「アルディナの魔力 第二章 岩窟の契約」お読みいただきありがとうございます。
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Z.P.ILY




