第39話:避けられない場所
●主人公:アーヤ・アーデン
彼女はアルディナ王国の王都アルディナで、神殿の職務にあたる神官。以前は巫女だったが、その力を見込まれ神職試験を経て神官となった。
夫と子供二人を家族とし、仕事と家庭を両立するキャリアウーマン。清楚で真面目だが、心に秘めた好奇心と、誰にも言えない夢がある33歳である。
太陽の神子として覚醒し、世界を作り変えるために、神が作り出した六魔王を導く宿命を持つ。
●グレイ・リヴァント
神殿騎士団の副長を務める高身長のイケメン38歳。
筋肉質で短く整えられた黒髪は、鋭い青い目の視線を際立たせる。
戦闘では冷静沈着で真面目な性格からは想像できない強さと熱さを発揮する。神殿では最も頼れる存在。
アルディナの伝説の剣士の末裔。
●ミラ・フィローネ
アーヤが目をかけている後輩巫女。快活で素直な性格であり、神殿内の人間関係にも明るい。アーヤを姉のように慕う。巫女としての霊的な力や知識は持っているが、まだ未熟で成長過程。ショートの鮮やか赤い髪がカワイイ22歳。
風の一族との関係がありそう。
●エリス
王都の西に位置する街マクホカタの山の麓リアケーアにすむネコの獣族。白毛に赤茶の耳、しっぽの先も赤茶色。
明るい性格でいつもおちゃらけているが、特別な獣族にのみ与えられる能力〈未来視〉を持つ。青氷色の左目と金色の右目、能力の違うオッドアイが獣族の未来を見る。好物はフィッシュバーガー。
ーー地下五階 魔王城ーーー
地底の天蓋に淡い鉱光が揺らめく中、魔王城の高い塔をなぞる風は、岩肌を渡ってきた冷たさを帯びていた。
城内の大広間では、巨大な石の玉座に鎮座する大地の魔王ユルジークの怒りが、ゆっくりと世界を揺るがせていた。
「なに!…タッキルがやられただと!」
「ひっ!」
地下二階での戦闘を報告するネズミが、ユルジークの怒号に慄く。
ユルジークの深く響く声は、まるで地鳴りのように重い。
玉座周辺の空気が震え、床の石がひび割れる音が微かに響く。
「一体どうなっておる!?」
「は、はい、魔王様……」
側に控える手下が、震えながら小さくうつむいて報告した。
「タッキル様は廃墟の村にて討たれました。奴らの力は予想以上に強く、分魂の岩鎖が破られた上、敵の魔法により消滅いたしました。」
ユルジークは目を閉じ、額に深い皺を刻む。
大地の王としての威厳と狡猾さを兼ね備えた瞳が、一瞬だけ開かれ赤黒い光を帯びた。
「ぬうぅ、許せぬ!…タッキルよ…ワシの力を持ってしても敵わんとは…人間ごときが許されることではないわ!」
玉座に沈む岩の影が、まるで怒りに共鳴してうねるように揺れた。
ーー地下二階 廃墟の村ーー
地下二階の廃墟の村にあるカエルのアジトでは、グレイ、アーヤ、ミラ、エリス、モルグが、戦いの余韻に浸りながら傷の手当てを急いでいた。
「ふぅ…まさかあそこまで鎖が絡みつくなんて…」
アーヤは膝に手をつき、額の汗を拭った。
最後の呪文を放った余韻が、まだかすかに手のひらに残っている。
「だが、結果オーライだな」
グレイは剣を壁に立てかけ、肩にかかる傷の手当てを簡単に済ませながら言う。
「ユルジークも、今回ばかりは動揺してるはずニャ」
「うん……でも、まだ油断できないわ」
ミラは包帯を巻きながら、ふと窓の外を見やる。
「地下で何が起こっているか、完全には掴めていないもの」
そこへ、微かな物音と共にピッコとポッコが戻ってきた。
「傷は大丈夫かぁ?」
ポッコの声が響き、双子のカエルが顔を出した。
どこかで拾ってきたロープを小脇に抱え、二匹はぴょこんと入ってきた。
「あっ、カエルさんたちお帰りなさい」
アーヤは笑顔でカエルを迎える。
「手当ては済んだか?」
「えぇ、おかげさまで順調よ」
ピッコがアーヤに近寄り、スリスリと頭を撫でる。
「あんな怖い戦い、見てるこっちも手に汗握ったぜ」
「心配をかけたわね」
アーヤは微笑みながら頷いた。
双子のカエルは互いに目を合わせ、くるっと宙返りをする。
「さて……」
グレイが立ち上がり、傷を押さえながら呟く。
「そろそろ情報整理だ。チョロス、何か動きはを知ってるか?」
チョロスは薄暗い隅から姿を現す。
タッキルから受けた傷はミラたちの手当てによってすっかりよくなっていた。
「はい……地下三階の『エムエム』に関する情報を」
小声だが、緊張感のある響きがあった。
チョロスは命を助けてもらった恩を感じ、アーヤたちへの協力を誓っていた。
「エムエム……」
モルグの表情が険しくなる。
「地下三階…あそこはかつて、魔王城の隠し領域でした。通常は封鎖されている場所です」
チョロスは言葉を選ぶように続ける。
「タッキルの敗北は、おそらくすでに魔王の耳に入ってます。警戒は強くなってるかと…」
「まぁ、そうだろうな…しかし、そこを抜けなければ、魔王のところには行けないのだろう?」
「はい、おっしゃる通りです。どのルートでも地下三階は避けられません」
「ふむ……つまり、次の目的地は地下三階というわけだな」
グレイが剣を背に掛け、視線をアーヤたちに向ける。
「私が先行します。何か手がかりを得られるかもしれません」
「裏切ってそのまま居なくなってもわからないニャ」
「信じていただけないのもわかります。でも命を助けてもらった恩返しをしたいのです」
「エリス…ここはチョロスを信じよう。どちらにしても地下三階は避けられん…」
「それに、地下三階で何が待ち受けているか、少しでも情報があるだけ助かるわ」
アーヤもチョロスの目を見て応える。
「わかったニャ。……おい、チョロス!偵察はオレの役目でもある。着いていくからな!」
「わ、わかりました。エリスさんにご一緒させていただきます」
「よし、それじゃあ移動の準備をするか」
グレイの掛け声で、みんなが一斉に立ち上がる。
アーヤは杖を握り直し、全員の顔を見渡す。
「モルグも一緒に行くわよ。ここからは一人じゃ心配だし」
モルグは大きく頷き、口元に傷跡の笑みを浮かべた。
「エムエム…村を無くしたヤツ…」
「オレたちはここに残る…」
双子のカエルがぴょんと跳ねながら言った
「デカブツの居どころもわかったし、この村のこれからのことも考えないとな」
「おい、デカブツ!村を元通りにするんだろ?必ず生きて帰ってこい!」
ピッコとポッコがモルグに向かって言い放つ。
「あ、ありがとう…」
モルグの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
アーヤがカエルたちに別れを告げると、全員で地下三階へ繋がる洞窟へと歩を進めた。
冷たい石の通路に、戦いの余韻とテラノクス特有の重苦しい気配が混ざり、緊張を漂わせる
「気を抜くなよ……地下三階には何があるか、誰も知らない」
グレイが低く警告する。
「ええ……でも、私たちならきっと大丈夫」
アーヤは杖をギュッと握りしめ、仲間たちと共に歩き出した。
薄暗い通路の冷たい空気が肌を刺す。静寂の中、遠くから微かに水滴が落ちる音が響いていた。
「アルディナの魔力 第二章 岩窟の契約」お読みいただきありがとうございます。
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Z.P.ILY




