第32話:沈没した村
●主人公:アーヤ・アーデン
彼女はアルディナ王国の王都アルディナで、神殿の職務にあたる神官。以前は巫女だったが、その力を見込まれ神職試験を経て神官となった。
夫と子供二人を家族とし、仕事と家庭を両立するキャリアウーマン。清楚で真面目だが、心に秘めた好奇心と、誰にも言えない夢がある33歳である。
太陽の神子として覚醒し、世界を作り変えるために、神が作り出した六魔王を導く宿命を持つ。
●グレイ・リヴァント
神殿騎士団の副長を務める高身長のイケメン38歳。
筋肉質で短く整えられた黒髪は、鋭い青い目の視線を際立たせる。
戦闘では冷静沈着で真面目な性格からは想像できない強さと熱さを発揮する。神殿では最も頼れる存在。
アルディナの伝説の剣士の末裔。
●ミラ・フィローネ
アーヤが目をかけている後輩巫女。快活で素直な性格であり、神殿内の人間関係にも明るい。アーヤを姉のように慕う。巫女としての霊的な力や知識は持っているが、まだ未熟で成長過程。ショートの鮮やか赤い髪がカワイイ22歳。
風の一族との関係がありそう。
●エリス
王都の西に位置する街マクホカタの山の麓リアケーアにすむネコの獣族。白毛に赤茶の耳、しっぽの先も赤茶色。
明るい性格でいつもおちゃらけているが、特別な獣族にのみ与えられる能力〈未来視〉を持つ。青氷色の左目と金色の右目、能力の違うオッドアイが獣族の未来を見る。好物はフィッシュバーガー。
あの夜、村は地面に呑み込まれた。
モルグは目を閉じる。
記憶が、ありありとよみがえってくる。
*****
冷たい風が吹いていた。空は雲ひとつない満天の星空だった。
子どもたちは焚き火の周りで踊り、大人たちは酒を酌み交わしていた。
……そのとき
(……ゴゴゴゴゴゴゴォォォォ )
「……なんだ、今の音……?」
村人のひとりが耳を澄ます。
地の底から、低い唸りが響いてくる。
まるで誰かが泣いているような、かすかな声。
「地鳴り……?」
畑の端で遊んでいた子どもが、怯えた顔で駆けてきた。
「モルグ、なんか……地面から変な音がきこえる!」
モルグは鼻をひくつかせると、風に混じった土と血の匂いを感じた。
「ま、マズい!……全員、家から出て村の広場に集まれぇ!」
モルグの叫びに、村人たちは一斉に動き出した。
だが、地面の動きは速かった。
「バキィッ!!」
耳をつんざく音が村の真ん中、井戸のあたりから響き、地面が裂けた。
「ひっ……ひいぃぃっ!」
子どもが泣き叫び、大人たちが慌てて抱き上げる。
モルグは大地を蹴り、裂け目のそばへ駆けた。
その瞬間、地面がずるずると沈みはじめる。
「全員、外へ!東の丘まで走れ!」
モルグは大声を張り上げる。
腕っぷしで倒れた家の戸をこじ開け、中にいたカエルの夫婦を引きずり出した。
「モグラさん!」
カエルの叫びが、耳に届く。
「後ろへ下がれ!近寄るな!」
だが、次の瞬間、カエルの足元の地面が崩れ落ちた。
「カエルッ!!」
モルグは跳んだ。
爪で地面を引っかき、裂け目に落ちかけたカエルの腕をつかむ。
「こっちだ!つかまれ!!」
「モグラさん……!」
カエルの小さな手が、必死にモルグの腕をつかむ。
だが、さらに大きな地響きが響き、村全体が傾いた。
(ズルッ……)
足場が崩れ、モルグもろとも裂け目へ引きずり込まれそうになる。
「クソッ……!」
モルグは全力でカエルを引き上げようとした。
爪が石を削り、血がにじむ。
「モグラさん……たすけて!」
「わかってる!絶対離すんじゃないぞ!」
そのときだった。
耳の奥を刺すような高い泣き声が、夜空に響き渡った。
女の声……いや、人間ではない。
凍りつくような、冷たい泣き声。
「鳴哭の……魔女……!」
誰かが叫んだ瞬間、地面が崩れ落ちた。
「――っ!」
モルグはカエルを抱き寄せるようにして跳んだ。
だが、落下する瓦礫が背中にぶつかり、視界が白くはじける。
「カハッ!!」
気づいたとき、モルグは愕然とした。
その側には、血だらけのカエルが地面に転がっていた。
「おい……カエル……!」
モルグはふらつきながら膝をつき、必死で呼びかける。
「目を開けろ!なあ……!」
指先にべっとりと血がつく。
爪の隙間に赤黒い液体が入り込み、モルグの心臓が冷たくなる。
「俺が……やったのか……?」
思考が真っ白になる。
次々と村の家が崩れ、地面が沈んでいく。
「モルグ!早く逃げろ!」
村長が叫ぶ声が聞こえる。
「違う……俺は……」
モルグは一歩も動けない。
だが次の瞬間、村長がモルグの腕をつかみ、力ずくで引きずった。
「いいから行け!生きるんだ!」
モルグは振り返った。
最後に見たのはオリオン座が美しく輝く満天の星空だった。
そして……村が光を残したまま地底に沈んでいく光景だった。
星が…消えていく。
「う、うあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
モルグの叫びが、夜空に響いた。
*****
記憶はそこで途切れた。
「……そして、気がついたらこの地底に……俺は村をもとに戻したい……俺なら地底でも生きていけるけど……」
ミラが、そっとつぶやく。
「……そんなことが……」
アーヤは唇をかみ、グレイは腕を組んだまま目を伏せている。
「お前、ずっとそれを……一人で抱えてたのか」
ピッコが低くつぶやく。
モルグは無言でうなずいた。
そのときだった。
――カン、カン、カン……。
金属がぶつかる音が、遠くの通路から響いた。
「何か来る…ちょっとヤバいヤツニャ!」
エリスの声にグレイが剣を抜いて反応する。
アーヤは杖を握りしめる。
「モルグ、下がってて!」
アーヤが叫ぶ。
モルグはゆっくり立ち上がった。
目に、決意の光が宿っている。
「……もう逃げない。今度は守る…」
金属音が近づく。
緊張が、辺りを満たしていった。
「アルディナの魔力 第二章 岩窟の契約」お読みいただきありがとうございます。
今後の展開や、執筆における参考とさせていただきますので、是非、評価をお願いいたします。
誤字や脱字がありましたら、遠慮なくフォームよりご報告ください。
また、本作品へのご意見やご要望につきましては、メッセージ等で随時受け付けてます。皆様からの忌憚のないご意見等をお待ちしてます!
Z.P.ILY




